刀剣乱舞 -私はブラック審神者らしい- (二)

87 ｢何卒、彼らをよろしくお願い致します｣ ページ37

ぽかん、と松田さんに言われた主、って言葉に静止した。さっき手入れ部屋でこんちゃんとしたやり取りが頭を過ぎって、あたしが、もう後戻り出来ない決断をしたんだと、改めて実感し始めた。


｢不安でしょう、｣


画面から聞こえた言葉に視線を上げた。不安。…うん、不安だ。正直。衝動で動いて、頭が追いつけてないとも思う。手入れを無事に終えたのは良いけど、問題は、ずうっと先まで続いてく道先のゴールがどんななのかも想像出来ないことだ。

彼らの傷を全員分治すのも、絶対に大変だってことが分かったし、三日月様の切ない顔や、あの黒い神様を見てそれ以上に感じたけど、目に見えない傷の方がずっと彼らは深いんだ。そしてそれを治す方が大変で、あたしにそう出来る力があるなんて…正直言うと、思えない。


｢…｣


でもここで、はいって言ったら、後ろにいる皆に聞こえちゃう。


｢……頑張ります｣


そう言うことしか出来なかった。松田さんの表情は、声だけでは窺えなかったけど、あたしの言葉を聞いてから少しの間、思案してたみたいだった。


｢まずは、一人一人、手入れをしていきましょう｣
｢…｣
｢貴方の命が第一なのは変わりません。自分の身を最優先に、無理は為さらず。何かあったら、こんのすけを介して、必ず報告して下さい｣
｢…はい｣
｢我々も、貴方の元いた世界についてや、前の主についての情報を掴んだ場合は、即座にお知らせすることを約束します｣
｢はい、…お願いします｣
｢…｣
｢…｣
｢有難うございます｣
｢…え？｣


松田さんの突然の予期せぬ発言に固まった。

しばらくの沈黙の後で、言葉が続く。顔は分からないけど、その声の様子から、松田さんが今とても緊張していて、慎重にあたしへ話しているんだと分かった。


｢我々は当初、混乱の最中で貴方に対し、随分早急な決断や要求を迫りました。それを……本当に申し訳なく思っています｣
｢…｣
｢ブラック本丸の立て直しは、大変難しく、…多くの熟達した審神者達の殆どが失敗してきた難関です｣
｢…難、関｣
｢ですが、こんのすけや、特に……三日月宗近の態度の急変には、我々も驚かされました。彼らは、貴方を信頼し始めています｣
｢…｣
｢我々政府一同も、貴方を信じ、本丸復興に全力の協力を尽くすと、意見が固まりました｣


松田さんの静かな言葉が胸に沁みる。


｢何卒、彼らをよろしくお願い致します。そして、貴方の決断と勇気に、心より、感謝申し上げます｣

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