刀剣乱舞 -私はブラック審神者らしい-

29 ｢この本丸で…？｣ ページ29

こんのすけさんの声の、底無しの悲痛さが、“これは大切な話だ”と、そうありありと物語っていて、あたしは息を止めそうになった。
あたしの微かな息の音や物音が、彼の話を、場合によってはすぐさま中断させてしまうと思えるくらい、繊細な緊張が伝わってきた。


｢………時間遡行軍、刀剣男士、審神者に、霊力………2000年初頭の時代から、やって来られた貴方様からすれば…この世界の何もかもが、理解に苦しむ事象でございましょう、」
｢…｣
｢貴方様がはじめ、外を一度、ご覧になられたように、この本丸は、穢れております…。本来は、緑も生き物も溢れる、豊かな土地にございました、それがこのようになってしまった…それも全て、私の働きが、不届きだった故に御座います、｣
｢…｣
｢貴方様が目を覚まされ、私に話しかけた際…いえ、その瞬間から、つい先程まで、私は……未だ貴方様を疑い、そして信じ難かったのです、…貴方様が、変わられたとは、…、前の審神者と、別の人間だとは…、！！｣
｢、｣
｢貴方様と同じ見目の審神者は、この、……本丸で、…、っ｣


こんのすけさんはそこでぎゅうっと、口をつぐみ、そしてその体も、苦しそうに縮こまらせた。


｢この、本丸で…？｣


同じ言葉を繰り返す。促すように。

正直、知りたかった。あたしと同じ見た目の、酷い奴が、ここで一体何をしていたのか。

ふるふると体を震わせるこんのすけさんに、痛々しい気持ちになる自分と、同時に湧いてしまう無責任とも言える興味、

心臓がバクバクと鳴って、手に汗が少し滲んだのが分かった。こんのすけさんが、す、と息を吐き、ゆっくりゆっくりと語りだしたその話は、どんどんそのはやさと、声の大きさを強めて、最後にはそれは、ひたすら悲痛な、告白と懺悔になっていた。




｢この本丸で、｣




…



｢…｣


開いた口が塞がらなかった。気付いた時には、こんのすけさんだけじゃなく、あたしの全身まで、ガタガタと震えていた。


…信じられない話だった。


腕を、足を、髪を、目を、皮膚を、
バラバラバラッと荒くめくられるページみたいにその景観を思い浮かべて、余りの嫌悪感と惨さに吐きそうになった。ここに来て、初めて強烈な激しい頭痛に襲われた。

あのお兄さんが、あたしに土下座していたのは、




｢一期一振は、多くの短刀達の兄であります…、前の審神者は、兄自らに、弟を折らせました…！彼は、また同じことが起こらぬように、ここへ、懇願しに来ていたのです…！｣

30 (なんでそんなことすんの、)→←28 ｢…よかった」

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す