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背景の裏側、客席からは見えない位置。
だけどこっちの隙間から、客席は見える。
もちろん、劇も。
見たくない。そう思うのに、俺は。
見てしまった。
「……え」
なんだよあいつ
…キスしてねぇじゃん。
客席からは角度的に
しているように見えるかもしれないけど、
それは確かにキスをする フリ なだけだった。
あんな練習までしといて、
「なんだよ、それ…」
俺は俯きながら、ちょっと泣きそうになった。
だって、藤ヶ谷、
なんで手、頬に添えてねぇんだよ……。
劇は無事、大盛況に終わった。
「王子役の子イケメンだったよね!ヤバかった!!」
「オーロラ姫の子も美少女だったし、本当のカップルだったりして!」
「ならあのキスシーン本当にしてんのかな!きゃ〜♡」
何とでも言えばいい。
もう、周りの声なんて気にならなかった。
藤ヶ谷、お前の気持ちが 俺は知りたい。
俺の事どう思ってんだ?
あの練習、なんだったんだよ。
現実に、ハッピーエンドなんてもんがあるんなら
俺はそれを、夢見てもいいの?
「北山」
「っ、藤ヶ谷、お疲れ」
「お疲れ様。ねぇ、後夜祭出る?」
「後夜祭?…あーどうしよっかな」
「出ないなら、ちょっと付いてきてほしいんだけど」
「ん?」
なんだか、いつもの雰囲気と違う気がするのは
王子役が抜けきれてないからなのか?
…役を引きずるってやつ?
どこに行くかも分からないまま、
藤ヶ谷についていく。
途中、何人もの友達に
「王子だ〜〜」なんて絡まれてたけど
藤ヶ谷は笑ってスルーするだけだった。
やっぱり何だか、いつもと違う気がする。
着いたのは、非常階段。
もう外は夕日も沈んで、薄暗くなっていた。
遠くの空を見つめながら、藤ヶ谷が静かに深呼吸する。
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作者名:はむ | 作成日時:2017年4月20日 23時