3話 ページ4
「……」
先生が窓を開けた。
まだ春。5月に入ったばかりなのに、「暑いね」と。
「ふぅ……」
先生が外を眺めながら言った。
「来栖くん、嘘なんてつくから、
先生と補習になるんだよ？」
「……はい」
先生は、あの空白ばっかりの紙を見つけた後、
満面の笑みで「居残りよ」と俺に言った。
連れてこられた学習室は、湿気がこもっていて、
机も椅子もどれも年季が入っていた。
つまり、俺は絶好のチャンスを手にしていた。
今なら、彼氏の有無を聞けるからだ。
ただ、俺は気に入らないことがあった。
俺はこいつのことなんかミジンコ程度だと思っているのに、
彼氏いるの？なんて聞いたら、好意があると勘違いされかねない。
あんな男子の悪ふざけに本気になることはないと分かっていながらも、
背負ってしまった期待に負い目を感じている。
突然教室にこいつの彼氏がきて、
「今は来ちゃだめっていったじゃない！」なんて、
うっかりバレてしまわないかなんて妄想までもしてしまうようになった。
「来栖くんは、部活、なにに入っているの？」
先生はもうすぐ卒業する俺たち3年生のことをもっとよく知るために、積極的に生徒に関わっているんだろうなと、うすうす感じていた。
それもそうだろう。
俺たちと一緒にこの学校に入ってきて、
俺が1年生のときは2年生の担任。
俺が2年生のときは1年生の担任と、
運良く……一度も俺たちの学年を担任することなく今に至る。
「なんも入ってないっすよ」
「ウソ、帰宅部なの？」
別にここは大した学校じゃなければ、
特に良い人材を輩出しようとしているわけでもない。
だから、部活に入らなくても許される。こういう緩い環境が俺には合っている。
別に、熱中したいこともないし。
青春がどうとか、どうでもいい。
運動部のヤツらは土日に練習があるから、あんまり会えないのはつまんないけど。
「適当でもいいから何かに入ればいいのに」
「それ、先生が言っちゃっていいんすか？」
「どうせあなた勉強もしないし、
放課後携帯いじってるくらいなら汗かいたほうがいいわよ、思い出もつくれるし」
「そーゆーの求めてないんで。」
「……おませちゃんね」
「じゃあ逆に聞くけどさ」
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作者名：くしこゆ | 作成日時：2021年4月5日 15時
