【文スト】何も知らない【太宰治】 (ページ16)

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何も知らない14 ページ16

「僕から、離れるな。」

倉庫のような、灰色の建物の外。

淀んだ空気の中で、芥川さんの声は頭に響いた。

『羅生門』

瞬間、目の前にあった扉は芥川さんから飛び出した黒い物体(異能？)によって、木の残骸と化した。

そこには、黒い服の男性が約五十人。

やっと、気づいた。

荷物運びなんかじゃなかった。

今から始まるのは、何よりも残酷な仕事。

その手に持った拳銃はこちらを狙っていた。

乾いた音が響いた。

一回だけじゃない。何回も、何十回も。

でも、それは長くは続かない。

足から、身体から力が抜け、座り込んだ私の目に映ったのは、

―――赤。

視界の端で、赤が飛び散る度に、音が小さくなっていく。

異様な黒い影が飛び回り、さっきまで人だったモノが倒れていく。

床には、握られていたはずの拳銃と身体の一部が無造作に転がり床を、赤に染めていった。

恐い。

「っ・・・」

私には、何もできなかった。

声を出すことも、残酷な光景から目を離すことも、芥川さんを止めることでさえも。

ただ、耳を塞いで、蹲ることしかできなかった。

あの時と同じように。

「・・・お、にいちゃん」

この声は、きっと誰にも届かない。

ずっと昔に、『真実』から目を背けてしまった醜い私の声なんて。

そっと、意識を手放した。