僕たちの帰る場所3 (ページ21)

今日:8 hit、昨日:15 hit、合計:317,387 hit

. ページ21

kj side

何度か着替えながら、セットのソファーでくつろいでみたり、食事をしている風のポーズをしてみたり。
めめも裕翔さんもリラックスムードで撮影は進む。

しかしそれでも、スイッチの入っためめの顔はいつもと少し違って、よく知っているはずなのに違う人といるみたいな不思議な感覚を覚える。

『良いよ～、もうちょっと目線ちょうだい～』
『持ってる本もうちょい上にして～』

なんていう裕翔さんの指示に的確に答えている姿もなんだか新鮮だ。

撮影とチェック作業を一通り見学させてもらい、その後場所をカフェに移して話を聞く。

『改めまして、中島裕翔です。今日は来てくれてありがとう。実際見てみてどうだった？』

「びっくりしました。機材もセットも大掛かりで…でも、みんな楽しそうで、素敵だなと」

俺がそういうと、裕翔さんはぐっと身を乗り出した。

『でしょ？俺この仕事大好きなの！人の色んな表情を撮ってるのが一番幸せ！』

mg「裕翔さん…康二引いちゃうから」

裕翔さんのテンションはどんどん上がり、めめにツッコまれている。

『でね、向井くんの撮った写真に写ってる人の顔が、俺本当に好きなの』

「はあ…」

『プロの道は考えてないらしいけど、それって絶対もったいないよ。人生は一度きりだよ？！』

mg「だから裕翔さん、静かに」

『あっごめん… でも、是非うちで働いてほしくて…ダメ？』

さっきハッと縮こまったばかりなのに、結局またヒートアップして怒られている裕翔さん。キラキラした目は少年のようで、本当に見ていて飽きない。

とは言っても、めめの話ぶりからするに、彼は本当にすごいカメラマンさんらしい。
そんな人が俺の写真をこんなに気に入ってくれたことは素直に嬉しいし、彼のもとで働けるなんて願ってもない話だ。だけど…

プロにはならないって決めたことが正解だったのかは、正直今でもわからない。

現に、いい写真が撮れた時や、逆に仕事で嫌なことがあった時なんかは、カメラマンを目指していれば…なんて想像してしまうことも多い。

一方で、カメラの世界にいないからこそ、そうやって甘い想像の世界にいつまでもいられるのだという気持ちもあって…

「少し考えさせてください」

結局俺は、そう言うことしか出来ずに店を後にしたのだった。