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ab side
実家までは電車を乗り継いで2時間半くらい。
親元を離れたい一心で、ギリギリ通えない距離の大学を選んで、そこで就職も決めてしまったからだ。
車窓からやけに青い空を眺めていると、なんだか昔のことを思い出してしまう。
医者一家の長男として生まれた俺は、小さい頃から父親の病院を継ぐべく育てられてきた。
勉強漬けで、テストで100点を取るのは当たり前。褒められたり話を聞いてもらったりしたこともない。
俺には弟もいたけれど、どうやら期待をかけられているのは長男である俺だけのようだった。
遊ぶ暇なんてなくて、おかげで小学校では1人も友達が出来なかった。
弟を羨ましいとも思ったけれど、それを口に出すのも怖くて、俺は次第に殻に閉じこもっていったんだ。
そのまま迎えた中学入学の日、出席番号で並んだ席を探すと、「阿部」は安定の一番前。後ろの席に「岩本」もとい照、そして隣が「佐久間」だった。
佐久間はクラスの中でも圧倒的にうるさくて、でもすごく面白いやつで、みるみるうちにクラスの中心になっていった。
そんな佐久間と、彼に最も遠い存在だった俺が仲良くなるきっかけになったのは、一冊のノートだ。
一番前のくせに授業中うとうとしちゃって当てられた佐久間を見かねて、なんとなく差し出したノート。それを見て、あいつは
sk「うっわ。阿部ちゃんすっげー!」
なんて大声出して、さらに先生に怒られてたっけ。
「あ、阿部ちゃん…?」
sk「そう、阿部ちゃん!いいあだ名でしょ?」
それから、勉強が苦手だという佐久間に勉強を教えるようになって、次第に佐久間の周りのクラスメイトとも話せるようになって、ついに俺にも友達というものが出来たんだ。
あるとき、佐久間に言われたことがある。
sk「阿部ちゃんってさ、自分の思ってること話すの苦手?」
あまりに明るいトーンで放たれたその言葉は、それでも十分俺の心に突き刺さった。まさか見透かされていたなんて。
だけど、次に続いた言葉は、俺をさらに混乱させた。
sk「俺もそうだったんだよね。ネガティブで、自己主張も苦手で。でも、ダンスに出会って変わったんだ。
ということで、阿部ちゃん、ダンス部入んねぇ?」
「…はぁ?」
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作者名:わかめ | 作成日時:2020年1月15日 1時