156針 ページ15
そこで黒い武装兵達が太宰達の周りを囲む。
そしてその間から靴音を鳴らしながら歩いてくる一人の男。
「後は我々が引き受けましょう、太宰君、Aさん」
坂口安吾は相変わらずの丸眼鏡を片手で押し上げながら部下に命令を出す。
ドストエフスキーは抵抗することもなく手を頭の後ろに組んで膝を下ろした。
武装兵の一人がドストエフスキーに手錠を付けようと彼の手首に触れた瞬間、ドストエフスキーはニッと嗤った。
「待て！其奴に触れるな！」
太宰の咄嗟の叫びも虚しくガスマスクの内側で血が弾けた。
がくんと倒れ込みピクリとも動かない。
「死んだ」
フィッツジェラルドが静かに云った。
武装兵達は警戒するように銃口をドストエフスキーに向ける。
「妙な動きがあれば即射殺します」
「ええ行きましょう」
安吾の言葉に萎縮した様子もなくドストエフスキーは立ち上がり特務課の武装兵達によって連れていかれた。
『(甘いなぁ……腕や足の一本でも撃つか痛めつけるかすれば良いのに)』
Aは冷めた目でドストエフスキーの後ろ姿を見つめながらそう思う。
しかし一瞬で我に返り、そんな思考を振り落とすように頭を振る。
「探偵屋、奴の異能が判るか？」
「……いや………」
隣で太宰とフィッツジェラルドがこんな会話をしている事はAの耳には届かなかった。
横浜市内や探偵社社長と社員全員の無事が確認できた後、港には大きな豪華客船が一隻あった。
その中では探偵社社長の快癒祝いが行われ、タキシードやドレスなど着飾った者達が食事に舌鼓を打ったり、談笑をしていたりした。
『真逆……宣戦布告で船をくれるとは…お金持ちの感覚はわかんないなぁ……』
フィッツジェラルドより贈られた船の、一番上のテラスで手摺に身を乗せるAの姿。
Aは中で食事をするでもなく誰かと話すでもなく、ただつまらなそうにぼうっと街を眺めていた。
一つ下のテラスでは太宰と敦とが話し合っている。
その内容は芥川についてのようで、殺す約束と殺さない約束をした敦と芥川の二人にAも慈しむ様に微かに笑った。
耳でそんな二人の会話を聞きながら眼前に広がる横浜の街をAはじっと見つめる。
目にしみるような眩しい橙色に包まれた横浜の街はどこか幻想的で現実離れしていた。
そんな光景を目に焼き付けるようにAはゆっくりと目を閉じた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 234人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
jumpcontrolbear(プロフ) - 砂漠のうさぎさん» コメントありがとうございます！なんと！！私の知らないところでこの作品の名前が上がっていたんですね！嬉しい限りです！！更新ゆっくりですが頑張っていきます！ありがとうございます！ (2019年10月21日 0時) (
レス) id: 34857aaa52 (このIDを非表示/違反報告)
砂漠のうさぎ(プロフ) - あるユーザーさんの紹介から飛んできて一気読みしました。原作の雰囲気を崩さないで新しいキャラが動いていて凄いと思いました。話の展開とか言葉のチョイスとかとても好みです…更新楽しみにしてます、頑張ってください！長文失礼しました (2019年10月20日 21時) (レス) id: ad3e66ea3f (このIDを非表示/違反報告)
jumpcontrolbear(プロフ) - 桜さん» コメントありがとうございます！！あけましておめでとうございます！！また動くみんなを見ることが出来ますね！相変わらずの亀さん更新ですがよろしくお願いします！ (2019年1月5日 23時) (レス) id: 10ce31b7ea (このIDを非表示/違反報告)
桜 - あけおめです！今年ほ更新頑張ってください！作者さん文スト3期4月放送ですよ！来ましたよ！！いろいろと大変かもれませんが頑張ってください！ (2019年1月5日 1時) (レス) id: c482d4ca60 (このIDを非表示/違反報告)
jumpcontrolbear(プロフ) - 桜さん» コメントありがとうございます！！番外編も読んでくださったんですね…(感涙)楽しんでもらえてなによりです！！亀更新ですが頑張りますので気長にお待ちいただけると嬉しいです！ (2018年11月22日 9時) (レス) id: 10ce31b7ea (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：だし丸 | 作成日時：2017年8月31日 11時
