23針 ページ24
No side
その日の業務を終えてAは社員寮にある自分の部屋に戻ってきた。
鍵を開けて中に入る。
生活に必要なものだけで室内はガランとしていた。
『なんか、疲れたなぁ……』
Aはシャワーを浴び終えると湯を沸かし紅茶を淹れる。
そのままリビングのソファに座った。
紅茶の香りがAを安心させる。
「どうしてマフィアに居たんですか?」
昼間、敦に聞かれたその質問がずっと頭から離れない。
『どうしてだったかな………。
あの時は私の居場所はそこしかなかった、からかな……』
目を閉じて背もたれに頭を預ける。
瞼の奥でひとりの男性が浮かぶ。
いつも豪快に笑う人だった。
あんな場所にいるのが似合わないくらい。
『先生………。』
Aはポツリと言った。
その言葉は部屋に消えてなくなった。
紅茶を飲み干す頃にはAは睡魔に負けそうになっていた。
『今日は寝たくないのに…また..あの……夢を……』
そこまで言うと部屋には静かな寝息が聞こえた。
Aは眠りに入ってすぐに夢を見た。
大嫌いな夢を。
自分の過去を振り返るだけのつまらない夢を。
その夢の始まりはいつも決まっていた。
どこか知らない場所の柵の中。
手足は鎖で繋げられ衣服もボロボロ、小さな怪我や傷跡のある自分の体。
そこから出されて長い夢が始まる。
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作者名:だし丸 | 作成日時:2017年2月3日 0時