五条悟の初恋 ページ7
俺にとって宮井Aという人間は、割とこの世界のすべてだと言っても過言ではないかもしれない。
たった一人の年下の女が、俺の人生を変えた。生き方も考え方も塗り替えられた。古い家の壁を新しいペンキで塗り替えられるように、俺の人生は完全にアイツの色になってしまった。
だって、文字通り呪い呪われるばかりの俺の人生の中に「恋」という一文字が加わったのは、紛れもなくアイツのせいなのだから。
宮井Aを初めて見たのは、俺がまだ一年だった頃。その日は夏真っ盛りと言うにふさわしいほど暑く、雲ひとつない快晴だった。
任務で遠出するのはそれが初めてだったが、電車が一時間に一本という田舎を訪れたのもそれが初めてだった。電車が一時間に一本のくせに、乗客も数えるほどしかいないという過疎地域。まさに限界集落と呼ぶにふさわしい、と当時の俺は鼻で笑っていた。
どうせ、面白いものも何もない。
さっさと任務を済ませて、次の電車で東京へ帰ろう。
そう思っていた俺の前に現れたのが、アイツだった。
目的地に到着するまで暇だな、と思っていると、途中の駅で学生が何名か乗車してきた。全員お揃いの、セーラー服に、薄水色のスカーフ。肩に背負っている学校指定のカバンには、中学校の校章と思しき刺繍。
地元の中学生か。そう何となく思っていたその時、彼女たちの後に遅れて乗り込んできた、一人の女子。
お喋りを始めた彼女たちの輪に入らず、ガラガラの座席に座り、一人で本を読み始める彼女。すました顔で、少しも表情を変えない。そんなの見てもちっとも面白くないのに、なぜか目が離せない。それどころか、ずっと見ていたいとさえ思ってしまっていた。
やがて数駅先で彼女は降りてしまい、俺もその先の駅で降りて、任務を終えて高専へ戻った。結局俺たちは何も始まらず、互いの名前も知らず。向こうからしたら、俺の存在さえ認知していないだろう。
「悟、どうしたの?出張行ってから様子がおかしいけど」
「…別に」
「もしかして好きな人でもできた?」
傑が冗談めかして言った言葉が、俺の心にすとんと落ちる。
俺、アイツのことが好きなのか。
話したことすらないのに、一目見ただけで、こんな。
そう自覚した途端、どうしようもなく、また一目でいいから会いたくなった。
それが、俺の人生に、「恋」という1ページが追加された瞬間だった。
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つく(プロフ) - のみさん» のみ先生ありがとうございます…!のみ先生からの励まし、とても力になりました。今後ともよろしくお願いいたします…! (2021年2月20日 13時) (レス) id: 90f06cbeae (このIDを非表示/違反報告)
つく(プロフ) - へかーてぃあ@夢見月*小夜セコム隊さん» オワァ!最初から読んでいただいてありがとうございます…!続編についてもいつか公開すると思いますので、また楽しんでいただけるよう頑張ります! (2021年2月20日 13時) (レス) id: 90f06cbeae (このIDを非表示/違反報告)
つく(プロフ) - 晩鶴紫呉さん» ありがとうございます〜!続編についてもぽちぽち書き進めている最中ですので、いずれ公開します! (2021年2月20日 13時) (レス) id: 90f06cbeae (このIDを非表示/違反報告)
つく(プロフ) - はにゃさん» ありがとうございます!続編もいずれ公開されると思いますので、その際はよろしくお願いします〜! (2021年2月20日 13時) (レス) id: 90f06cbeae (このIDを非表示/違反報告)
つく(プロフ) - 五音さん» コメントありがとうございます!続編については制作中ですので、ある程度アップできる状態になったら公開しようと思います〜! (2021年2月20日 13時) (レス) id: 90f06cbeae (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:つく | 作成日時:2021年1月16日 1時