検索窓
今日:1 hit、昨日:2 hit、合計:67,038 hit

第1幕 ページ2

◆ ◆ ◆




馬車とは揺れる物だ。
かたかた、かたかた、と馬車が動く限り続く小さな揺れだけではなく、石でも撥ねたのか時折ガタンッ、と上下に馬車が跳ねる事もある。

だが馬車の入り口から脚を外に垂らして座った彼女は、そんな揺れなど全く意に介さずに本に没頭していた。

ゆっくりとページをめくるしなやかな指。

上から下へと文字を追う紅の双眸。

肩から腰へ流れる艶やかな黒髪。

豊満な胸、細い腰、凛とした佇まい──……


彼女はそう、まさに美女という言葉を体現した存在だった。


「“夜桜”姉様!」


不意に背後から踊り子としての自身の名を呼ぶ声がし、女性は本から顔を上げ後ろを振り向いた。


「“大姉様”がお呼びですわ」


了解の意を返して“夜桜”は立ち上がると、自分を呼びに来た少女に戻るように言い、本を置いて立ち上がった。
彼女が読書に没頭していた馬車は、幾つもの馬車が数珠繋ぎに繋がったうちの最後尾で、入り口から入り口へ板を渡し、一々馬車を降りずとも先頭の馬車まで行き着けるようになっている。

およそ五十程の馬車内を通り抜け、“夜桜”は先頭の馬車に辿り着いた。

意匠を凝らした両開きの扉を叩き、返答を待って中へと入る。

中には一人の女性の姿。
若々しい容姿をしてはいるが、その実何十年と年を重ねた人間の様な落ち着いた雰囲気のある、不思議な人物だ。
“夜桜”は女性に軽く頭を下げて礼をし、口を開いた。


「只今参りました“大姉様”。御用件は何でしょうか?」

「突然呼び出してしまってごめんなさいね。貴女に一つ頼みたい事があるの」


女性は見る者の心を落ち着かせるような、穏やかな微笑を浮かべて言う。


「現在、私達一座は煌帝国へと馬車を進めています。その事は既に知っていますね?」

「はい」

「それは煌帝国側から建国*十年を記念した盛大な式典があり、その祝いの席で私達に是非とも踊りを披露して欲しい、との依頼があったからだというのも当然知っているでしょう。」

「ええ、存じております」

「しかし、このままでは煌帝国へ入国出来ないかもしれないのです。
公にはなっていませんが、どうも何処ぞの輩が式典の前に煌の皇帝を亡き者にしようと刺客を送り込んだものの失敗し、かくなる上は式典の真っ只中で皇帝を殺めようと画策しているとの事で……その対応のために入国規制が格段に厳しくなっています。」

第2幕→←設定



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.8/10 (49 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
58人がお気に入り
設定タグ:マギ , ジュダル , 煌帝国
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

春波(プロフ) - 有紗さん» コメントありがとうございます!頑張ります! (2017年4月6日 12時) (レス) id: 1a8017367a (このIDを非表示/違反報告)
有紗 - めっちゃ続ききになります!更新がんばってください!! (2017年4月6日 0時) (レス) id: 29b6726ff9 (このIDを非表示/違反報告)
春波(プロフ) - アンジュさん» コメントありがとうございます。緑の黒髪とは髪の色が緑がかった黒だということではなく、艶やかな黒髪やみずみずしい黒髪という意味です。紛らわしい表現ですみませんでした。 (2014年12月25日 16時) (レス) id: 265852f7c9 (このIDを非表示/違反報告)
アンジュ - 緑の黒髪ではなく緑がかった黒髪の方が正しいのでは?緑がかった黒髪の方が読んでいる人もどんな色か想像しやすいかと。 (2014年12月25日 8時) (レス) id: 5ec94a4f4a (このIDを非表示/違反報告)
春波(プロフ) - リオンさん» コメントありがとうございます。すみません、名前変換はできるようにしていません… (2014年4月9日 17時) (レス) id: afd2fc571a (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:春波 | 作成日時:2014年1月14日 22時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。