☆ ページ8
考え事をしている間に寝落ちしたAの頭をそっと撫でた
眉間に深く刻まれた皺が心なしか緩んだ気がするのは俺の下心が見せる幻覚だろうか
どんな夢を見ているのか分からない
多分、いい夢ではないのだろう
もう一度髪を梳くように撫でたあと、そのまま手を滑らせて首筋に手を添えた
「………?」
右手は彼女の首に当てたまま左手は自分の首に当てる
「…………嘘、だろ」
自分の首を触って確信した
俺は脈が止まってる
死んでるんだからそれは当たり前だ
でも問題は、
「何で、」
Aの首筋からは、生きているという叫びが俺の指に伝わっていた
ーー
死という概念は実に単純で、俺としては身体の機能が停止したらそれに当たると思っている
それは結構スタンダードな考え方で、こうやって考える人は多いと思う
ただそれが正しい考え方かといえばそうだと断言することは出来ない
死ぬのはなにも身体だけじゃない
心だって、アイデンティティだって死ぬものだ
だからそう言った意味では確かにAも亡者なのかもしれない
だが身体的な意味に限っていえば、Aは亡者でもましてや死神でもない
うたた寝から目を覚ました彼女にそう伝えると、視線を彷徨わせた後にそっと俯いた
「……A」
「どうして、」
「え?」
「どうして、私が必死に否定してきたことに正面からぶつけようとするの」
「ーーお、れは」
「じゃあ私ってなに?死神でもない亡者でもないなのにこんなところにいる!!私はなに?教えてよ、私に教えてよ!!」
顔を上げた彼女の瞳からはとめどなく涙が溢れ、さっきの悪夢と繋がるところがあったのか眉間の皺はまた深くなっている
「今まで誤魔化して誤魔化して逃げてきたことに!自分の心につき続けてきた嘘に!向き合うなんて無理なのに、向き合ったところでどうにもならないのに、どうして私にトドメを刺すの!?」
女の子を泣かせた記憶さえも持っていない俺は、どうするのが正解かなんて分からない
だからせいぜい力いっぱい、彼女の身体を抱きしめた
まだあたたかい、その身体を。
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ゆーき - エッ智春さん!?戻ってきてたんですか!?!?うわああああめっちゃ嬉しいです!(;_;)そして大好きな作者さんばかりなので毎回楽しく見させていただいてます◎これからも応援してます (2016年3月23日 18時) (レス) id: 675204a53d (このIDを非表示/違反報告)
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