返事と期待 ページ43
それからというものの、ここ数日は、アシリパさんと一緒に鮭を街へ行って売ったり、狩りへ行ったりするだけだった。
そして今日は、みんなの服を洗濯していると、どこからともなく尾形さんがやってきた。洗濯をしている私の隣に座り、何をするわけでもなくじっとこちらを見つめてくる。
以前もこんなことがあったような気がする。
「あの、何か用ですか？」
「別に」
そう言うと、尾形さんは再び黙ってしまった。本当に一体何がしたいんだ。
私は彼に背を向けるようにして、作業を続けることにした。すると、尾形さんが再び口を開いてぽつりと呟く。
「あの時の返事は決まったのか」
「えっ？」
唐突に言われて、一瞬なんの話だが理解できなかったが、恐らく釧路でのことだろう。
───そいつのこと、忘れさせてやろうか。俺が、お前の家族になってやるよ。
彼は確かあの時、そう言った。
確かに私は、“普通の家族”の姿に憧れていた。けれど、それはもう叶わない夢なのだと諦めたはずだ。だから、彼の言葉に動揺してしまったのかもしれない。
だけど、あれ以来ずっと考えていた。
「……すみません、まだ決められないです…。でも今はまだ、私はこのままでいいです」
「どうしてだ」
「だって、私にはアシリパさんたちがいるから」
尾形さんは無表情のままだ。
アシリパさんたちと出会ってから、毎日が楽しい。それに、彼らがいれば寂しくない。たとえこの先どんなことがあっても、彼らと一緒なら乗り越えられる気がする。
「だが、いつかは一人になるぞ」
「…そうですね。ならその時は…尾形さんが迎えに来てくれますか？」
「…………」
冗談半分で聞いてみたのだが、彼は何も答えてくれなかった。ただ、私のことを見ているだけ。
少しの間沈黙が流れた後、尾形さんはゆっくりと立ち上がった。
どうせまたくだらないとでもいわれるんだろうな。しかし、結果は意外なものだった。
「…気が向いたらな」
それだけ言って、彼はどこかへ行ってしまう。
まさかそんな返答が来るとは思わず、しばらく呆然としていたが我に帰れば、顔が熱くなるのを感じた。
きっと今の私の顔は真っ赤に染まっているだろう。
尾形さんが去った後も、しばらくの間、心臓の音がうるさく鳴り響いていた。
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作者名：塩わさび | 作成日時：2022年8月11日 22時
