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さよなら姉畑先生 2 ページ25

次の日。
生憎の雨模様で、空はどんよりと曇っていた。
尾形さんは外套を頭からすっぽり身を包み、昨日と同じ体制のままじっと座っている。さすがは軍人だ。忍耐力がすごい。
その日も村の人々と交流をし、1日を過ごした。

そして夜明け前。
尾形さんは食糧庫から勝手に袋を取り出し、その上から外套をかぶせた。一見すると、尾形さんがそこにいるように見える。この計画を実行するために、もしかしたら彼は私に外套のボタンをつけるように言ったのかも、とふと思った。

辺りはしんと静まり返っており、時折聞こえる虫の鳴き声が響くだけだ。

尾形さんがそっと立ち上がり、谷垣さんがいる檻へと向かう。檻の前には見張りがいたが、昨晩と同じように眠りこけている。この様子だと起きないだろう。

とはいえ、油断は禁物だ。慎重に谷垣さんのいる檻に近づいた。肝心の谷垣さんはまだ起きていた。声こそ出さなかったものの、私達二人の姿を見るなり、彼は驚いたような顔をしていた。

特に複雑な鍵はかかっておらず、すんなりと谷垣さんを救出することに成功した。そのまま急いでその場を離れる。
道中、誰にも見つからないかひやひやしたが、なんとか夜明けまで切り抜けることができた。

「杉元たちを待ってもよかったのに…」

夜が明け、太陽が登り始めた頃。谷垣さんがぽつりと言った。

「時間が迫ればそれだけ監視も厳しくなる」

尾形さんが私を見るので、同意するように頷く。しかし、谷垣さんは納得いかないようで、言葉を続ける。

「逃げれば罪を認めるようなものだ」
「お前の鼻を削ぐのは俺がやってもよかったんだぜ」
「二人とも落ち着いてください。とにかく、今は逃げることが先決ですから」

私がそう言うと、二人は黙った。
しばらく歩くと、遠くの方から銃声が聞こえてくるのに気づく。まさか追手だろうか、と考えたがどうにも方向が違う。
音のする方へ向かうと、後ろから足音がする。

「いたぞッ逃げた三人だ!」
「見つかった!」

振り返ると、そこには数人のアイヌの男たちがこちらに向かってきており、その中にはキラウさんもいた。
このままでは追いつかれる。そう思い、走る速度をあげたが、足がもつれて転んでしまった。
背後から村人たちが迫ってきているのを感じる。

「尾形さん、谷垣さんッ!先に行っ……」

先に行っててください。
そう言いかけたとき、私の声は、大きな唸り声によってかき消された。

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作者名:塩わさび | 作成日時:2022年8月11日 22時

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