支遁動物記 3 ページ21
「久しぶりだな、谷垣一等卒」
「尾形上等兵!!」
谷垣さんが尾形さんの名前を呼んだことで、アイヌの男の一人が私達も仲間なのではないか、疑う。
しかし、尾形さんはそれを無視して谷垣さんに「鶴見中尉の命令で俺を追ってきたのか」と尋ねた。その様子は今にも引き金を引きそうなほどピリついており、下手なことを口にすれば撃たれてしまいそうだった。
「俺はとっくに降りた!軍にもあんたにも関わる気はない。世話になった婆ちゃんの許に孫娘を無事に帰す。それが俺の『役目』だ」
谷垣さんがそう答えると、尾形さんはどう思ったのか、皮肉な笑みで言う。
「頼めよ。『助けてください尾形上等兵殿』と」
「あんたの助ける方法なんて……この人たちを皆殺しにする選択しか取らないだろう。手を出すな、ちゃんと話せばわかってくれる!」
「ははッ、遠慮するなって」
その瞬間、二人の会話を聞いていたアイヌの男の一人が尾形さんに銃を向ける。向けられた当の本人は、「俺に銃を向けるな。殺すぞ?」と、先程までとは打って変わり、地を這うような声で静かに告げる。
その姿に、思わず「尾形さん」と名前を呼んでしまった。尾形さんに見つめられたアイヌの男はびくりと体を震わせる。
そうしているうちに、意見がまとまったらしく、谷垣さんはコタンへと連れて行かれることになった。どうやらそこで処遇を決めるらしい。
村へつくと、谷垣さんは子熊用の檻に腕を縛り付けられた。警察に突き出すだの、アイヌ式のやり方で処分するなどで揉めていた。議論は白熱していたが、杉元さんが割って入っていった。
すると、頭に血が登った男に杉元さんが殴られ、杉元さんはそれをやり返し、一時はどうなることかと思ったが、姉畑を3日以内に連れてくる、ということで話はまとまった。
「Aさんは尾形が何かしでかさないか、見張っててほしい」という杉元さんの頼みに、私は引き受けることにした。
「俺の助ける方法は選択肢が少ない」と尾形さんがいった手前、本当に何かあった時の為に、誰かがいたほうが良いだろう。
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作者名:塩わさび | 作成日時:2022年8月11日 22時