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77輪目 ページ31

ある日のこと。コーチに資料を渡しに行こうと職員室に向かっていると、見慣れた姿がドアの前で佇んでいた。
「赤司くん。」
「あぁ、亜麻野。どうかしたのか?」
声をかけると振り向く彼。

「コーチに資料を渡そうと思って。赤司くんは…」
「赤司征十郎をキャプテンにしてください。」

なぜここにいるのか尋ねようとした瞬間だった。職員室から聞こえてきた言葉に耳を疑ったのは。

「え…。キャプテン?」
「静かに。」
「う、うん。」
思わず困惑が漏れるが、赤司くんに制止され口をつぐむ。それと同時に、彼がここに佇んでいた理由を察した。きっと盗み聞きしていたんだろう。

その後も続けられる虹村さんとコーチの会話。どうやら、彼の父親が入院しているらしい。もし病状が悪化すれば、試合を放り出してでも父のもとへ向かうと。それはキャプテンとしてふさわしくないと。

聞いてしまった事実に脳内が白くなっていく。いつも明るく皆を引っ張っている彼が背負っていた現実はとても重いものだった。大好きなバスケと父親の命。天秤にかけるには酷すぎるだろう。


助けられていてばかりの自分が不甲斐なくて、申し訳なくて。


「大丈夫か?」
「あ、わ、私…。」
どこか心配そうにこちらを覗き込む彼に返事をしようとした瞬間、ドアの開く音がした。


「おう、亜麻野に赤司か。」
「どうも。」
「キャプテン…。」
いつも通りの虹村さんの様子に苦しくなった。

「てかお前達、聞いてやがったな?」
「最後の方だけです。」
「一番聞かれたくないとこじゃねーか。」
赤司くんの返答に呆れたように話す彼。

「つーわけで少し早いがこれからはお前がキャプテンだ。」
「…まだ決まっていませんよ。」
「決まってるだろ!あの話聞いといてまだキャプテンやらせる気か!」
そう話す虹村さんは普段通りだ。

しかし、不意に真剣な瞳を彼に向ける虹村さん。
「…不安か?」
「いえ。虹村さんの心配をしているだけです。」
「だろーな。だから俺は心配してねーわ。よろしく頼むぜ、赤司キャプテン。」
「…はい。」
赤司くんの返答を聞くと満足気に笑う虹村さん。

その光景は私にはどこか霞んで見えた。

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作者名:みぃ太郎 | 作成日時:2023年7月25日 21時

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