・16 ページ16
「急にごめんね、芥川くんだって忙しいのに。」
「お気になさらず。」
倉庫の中に放置されたままの木箱の上に座りながら、彼女は特に悪びれる様子もなく謝罪の言葉を述べた。彼女は芥川よりも四つ下だ。しかし、先にポートマフィアに来たのも彼女が先、それでいて彼女は芥川よりも上の立場だった。
初めこそ納得のいかない部分が無かった訳でもない。立場は幼い彼女の方が上だし、常に太宰の傍に居た。当たり前だ、当時の彼女は既に幹部補佐だったのだから。しかし、自分に妹がいる分、彼女を邪険に扱う事が出来なかったのも、彼女を愛らしいものとして可愛がっていたのもまた事実。
しかし、その考えを一変させる出来事が起こったのは、太宰が組織を抜けてすぐの事だ。負けたのだ。微力な子供に。彼女の身体能力は異様な程高く、彼の操る黒獣をひらりひらりと躱すのだ。そして気づいた時には、自分の身体は地に伏せ、彼女が自分を見下ろしていたのだ。そこには、以前のような無邪気さも、「龍くん」と明るく鈴を転がすような声で呼んでくれる彼女も居なかった。
その日から、芥川は彼女の部下となった。彼女の指示には従うし、尊敬もしている。ただの微力な子供という考えを改め、新たなる目標として掲げていた。
「三島くんは昔の君にそっくり。出来の悪いところとか特にね。芥川くんの方が幾分かマシだったかもしれないけど。」
貼り付けただけの笑顔を浮かべそう言った彼女の言葉に、芥川は歯を食いしばった。
彼女はどこか太宰を彷彿とさせるところがある。血の繋がりよりも強い絆が二人にはあるのだろう。しかし、いつしか彼女は太宰を尽く嫌うようになり、不用意に名前を出せば殺されかねない。そのせいで、今まで何人もの部下が犠牲となってきたことだろう。
「志賀くんは、出来が悪いと言うより異能の使い方も体術も甘々なんだよね。本当は彼は私が見た方がいいんだけど、芥川くんも同じような異能を使う相手ばかりじゃつまんないでしょ?ある程度叩き込んであげてよ。あ、でも程々にしてね。志賀くんには志賀くんにしかできない仕事がある。」
そう言うと、彼女は木箱から飛び降りて倉庫の出入口の方へと踵を返した。
「もうそろそろ来るだろうからよろしく。」
「はい。」
「全く、私の部下は揃いも揃って出来が悪いんだから困るよねぇ。」
彼女はそう言い残すと、外套を翻して倉庫を後にした。
555人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「文豪ストレイドッグス」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
あっきーばか(プロフ) - 初コメ失礼します。志賀くんタイプで性癖です。嫁にください。この作品の推し志賀くんになりました!読んでいてとても面白い作品をありがとうございます‼️更新頑張ってくだせぇ (2022年3月27日 10時) (レス) @page20 id: 43feeb5241 (このIDを非表示/違反報告)
Sena(プロフ) - 妹系大好きです!太宰さんとすれ違っている感じの夢主ちゃん、気持ちわかる…!!別小説なんですが、おっかな妹とかすっごく好きで!!現在は更新停止になっているようですが、また再開するのを楽しみにしています!!あと!反社とJKも大好きです!応援してます!!! (2022年2月10日 18時) (レス) id: 61121e16fc (このIDを非表示/違反報告)
にゃーちゃん - 初コメ失礼します!夢主ちゃんかっくいいぃぃぃぃぃぃい!もはやこの作品での推し夢主ちゃんかもしれない、、、←更新楽しみにしてます! (2022年2月10日 2時) (レス) @page46 id: eaf6e1fdb7 (このIDを非表示/違反報告)
おひな(プロフ) - 花蛸花さんが文スト作品を書いてくれるなんて思ってもいませんでした!しかも太宰さん!嬉しいです!!😭✨更新頑張ってください!!! (2022年2月2日 11時) (レス) id: fb3fd917e6 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:花蛸花 | 作成日時:2022年2月2日 2時