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191、正当化 ページ26

ムラクside


朝、思ったより早く目が覚めてしまったから、気晴らしにと校内を歩いて回ってい
た。本当だったら外を散歩したかったが、ワールドセイバーの連中がうろうろして
いて、そんなことはできず。

適当に歩いていたとき、教室に駆け込む人影が見えた気がした。その澄んだ藍の髪
は、見覚えのある色。

何をしているのだろうと、気になった。Aは、きっと人より悲しみなんかの感
情に敏感だ。傷つきやすいその心が折れそうになるのを、俺は何度か見たことがあ
る。だからだと思う。心配になったのだ。

教室に消えた影を追って、そこに入って見ると、扉の前にうずくまっているのは、
案の定A。

表情はわからない。でも、不安定なリズムで上下するその小さな肩や、たまにもれ
てしまっている嗚咽であろう声で、また何かあったのだろうな、と思う。

「……A」

努めて冷静に彼女の名前を呼ぶと、驚いたのか、肩が跳ね上がる。それでもA
は顔を上げようとはしなかった。

「大丈夫か?」

もう一度声をかければ、ようやく彼女は顔をこちらに向けた。その目には、大粒の
涙が溜まっていて、それでも溢れてしまったのか、頬にまで伝っていた。

「たすけて」と途切れ途切れに声を紡いで、助けを求めるように俺の方へ手を伸ば
す。その表情は、今にも消えてしまいそうなくらい、儚い雰囲気をまとっていて。

どうすればその涙を止められるだろうか、と思考を巡らせる。その答えにたどり着
く前に、体は先に動いてしまう。俺の胸の中で、Aは苦しそうに呼吸を速めて
いた。

きっと、過呼吸を起こすのは初めてではないのだろう。それでも本人は焦っていて、
どうしていいかわからないようだった。ゆっくり呼吸をするように促しても、無理
だと言って。

「落ち着け、大丈夫だ」

過呼吸の対応は、したことはないが知識としてはある。口元に何かを当てて、体内
の二酸化炭素濃度を上げればいい。それはわかっている。けれど。

彼女が俺の腕を握っていて、自由ではなかった。自分の手のひらで塞いでやること
はできない。

一瞬、ある方法が浮かんだ。でも、抵抗がある。でも、俺の胸の中では苦しそうに
呼吸を続けているA。

「……不可抗力だ、許せ」

自らの唇で、Aの唇を塞いだ。

すまないと、彼女ともう一人に心の内で謝って。この行動を、Aを助けるため
だと正当化した。

192、後悔と皮肉→←190、苦しい


ラッキーキャラ

法条ムラク


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陽竜☆ - ちょー久しぶり!覚えてる?更新頑張って(о´∀`о) (2015年3月16日 18時) (レス) id: 6900af9726 (このIDを非表示/違反報告)
風陣歌唄(プロフ) - 七瀬 暁さん» ありがとうございます。最近ほとんど更新できていなかったのですが、それでも読んでいただけると嬉しいです (2015年1月31日 16時) (レス) id: e32c18931f (このIDを非表示/違反報告)
風陣歌唄(プロフ) - 美月さん» 久しぶり、返信遅くなってごめんね!中学校ってテストばっかりで大変だよね……。更新速度はどうなるかわからないけど、これからもよろしくね (2015年1月31日 16時) (レス) id: e32c18931f (このIDを非表示/違反報告)
七瀬 暁(プロフ) - 凄く面白いですね!更新頑張ってください! (2015年1月10日 10時) (レス) id: a489451506 (このIDを非表示/違反報告)
美月 - 風陣歌唄さん» お久しぶり!期末テストとかで忙しくてあまり読めなかったけど・・・。続編おめでとう!これからもがんばってね('=')あ、私は無事に中学生になれました!空手部に入ったよ(><) (2014年12月23日 13時) (レス) id: 598d5a56fc (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:風陣歌唄 | 作成日時:2014年8月3日 10時

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