嗚呼、愛しい人よ【中原中也】

28話 ページ28

思わず、数回瞬きをして首を傾げてしまった。




｢私の、階級･･････？｣


｢はい！藤島さんの階級をお尋ねしています！｣




そんなもの、尋ねなくても今日だけで組織中に広まっているはずだ。


新人の最下級構成員が幹部の執務室に入り浸っていると。


それを知っていて、彼女はわざわざ直接聞いてきているのだ。




来月から準幹部。


彼女の年齢は見たところ20歳前後。その歳なら若くしての大出世だ。


並の努力と実力では辿り着けない場所に、彼女は上り詰めたのだ。


それを、ぽっと出の新人である私が踏みにじった。




｢階級なんて、無いけれど｣


｢ではどうして貴女はこの部屋に？｣


｢どうしても何も････｣




首領に命令されたからだ。


この男の相棒として、傍から離れるなと。


しかしそれを言ってはより組織に混乱を招く事になり、示しがつかないというもの。


そうなれば首領は否が応でも私に階級を付けねばならなくなる。




｢ここの首領は、随分な事をしてくれるわね｣




ポートマフィアでは、首領が絶対。


今の発言はかなり際どいもので、一瞬にして部屋の空気が凍りついた。




｢私がポートマフィアに入る際に条件を1つ提示したわ｣


｢な、何の話ですか？｣


｢貴女への疑問に答えてあげているのよ。その条件は･･｣｢やめろ｣




私の言葉を遮ったのは男だった。


いらぬ軋轢を産むまいと、わざわざ説明してあげようとしていたのに。




｢舞、お前も今日は帰れ｣




男は、桃瀬とかいう女の顔を見てそう指示を出した。




｢ですが、中也さん！｣


｢また今度説明してやるから、今日は戻れ｣


｢･･････舞？って、貴女の事？｣




今度は彼女がその大きな瞳をぱちくりと瞬かせる。


私はぐるりと首を回して男の顔を見る。


男は少し驚いたような、引いているような顔で私を見ていた。




｢私の、名前は舞ですがそれが････｣




私は男から一切目をそらさず、瞬きもせず、疑問をぶつける事にした。




｢この女の事は名前で呼ぶの？｣


｢いや、周りがそう呼んでるからうつったンだよ｣


｢まるで浮気がバレた時の言い訳ね？｣




私と男の間にある微妙な空気を読んだのか、彼女は｢し、失礼します｣と言い部屋を出ていった。

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