さよなら代役【8人目】 (ページ8)

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産まれてくれてありがとう【琴子ママ】ページ8

産まれてくれてありがとう【琴子ママ】

『今日帰ってもいい？』

携帯に入っていたメッセージを見てすぐに、返事を返した。

　
あまりに私が、にこにこしていたのか
一緒に稽古をしている他の俳優さんから
「何か良いことがありましたか？」
なんて、聞かれてしまった。

「娘がね、今日一緒にご飯食べない？って」

だから嬉しそうなんですね、と周りの人が口々に言う。

「小林さんですよね、娘さんて」

私の親馬鹿ぶりは業界では有名な話だ。

でも、誇らしげにしてもいいはずである。

特別な場所で頑張るAは、私の希望だ。

私は、演技しか出来ないけれど
あの子は歌も歌えるし、ダンスも踊るし
大勢のファンを、熱狂させられる力がある。

それが我が事のように、いつも心の支えだ。

でも、「ただいま」とドアの向こうから出した顔は
子供の頃と、何ら変わらない。

どんどんこの子は大人になってゆくけれど
私の中では永遠に、泣いてばかりだった、子供のまま。

Aちゃんが出ていったこの家は
父と私だけでは広すぎて、帰ってきてくれると
ピースが、ぴったり収まったようにしっくりくる。

母は早くに亡くなり、私も、結局ひとりで
この子を、育てることになったから
父は、さながら夫のように私を支えてくれた。

その甲斐もあり、私はこうして子育てが出来た。

私もこの子のように、青春そっちのけで芸能界の仕事をしていたから
人生において「家族」というパーソナルな場所を作れたのは
今振り返っても良い事だったと思う。

仕事を辞めなかったからこそ育児も楽しめたし
この子が居たから、辛いことも耐えられた。

近況などを話しながら、食事する。

我が娘ながら、整った横顔が目に痛いほどだ。

……やっぱり私は、この子を誰より愛している。

大袈裟ではなく、生まれてくれてありがとう、と毎日思っている。

親馬鹿ではなく、単純に馬鹿な親かもしれないけれど。

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