泥だらけで頑張るあなたが好き【琴子ママ】 ページ9
泥だらけで頑張るあなたが好き【琴子ママ】
「今度の話、決まったってね」
「…ね。」
「なんの話だ？」
「お父さんには、内緒」
にやりと二人で笑って、黙る。
お父さんは聞きたがったが、私達は
パクパクおかずを食べて、誤魔化した。
ある大きな仕事を今度二人でやることになった。
そう言えば私達の芸歴も大変な長さになるけれど
そういうことはなかったよなあ、と感慨深い。
俳優としてのAも、なかなか良い。
さすが、私の娘だと思ってしまう。
まあ何にせよ、傍から見たこの子の価値が高いのは嬉しい。
別に、この子に才能があるから
好きだったり、愛している訳ではないけど
彼女が、自ら手に入れた能力の一つだから
称賛してやらなくてはならないことも事実。
とは言えこの子がいつこの仕事を辞めたいと言っても
私は、気に留めないと思う。
私も、辛さと苦しさをよく分かっている。
こんな不安定な職業は、他にはないし。
こんなこと思っているなんて知られたら笑われるかしら。
自分を、少し情けなく思って笑う。
「楽しみやなあ」
「…仕事？」
「うん。え？ぼーっとしてた？」
「ちょっと考え込んじゃった」
「何を？」
どーしたん？と笑うAにまた口元が緩む。
「何でもないわよ」
「そうなん？」
「楽しみなだけ」
「そっか。」
「……ええ」
「ちょっとママ泣いてるけど！どうしたん？」
気づけば、何故か涙が出ていた。
「…よくちゃんとここまで育ったなと思って。
生まれて、きちんと育って、それから大人になって。
なんだか、感動しちゃって」
Aちゃんは、いつもの困り顔で笑った。
「もう、ママのおかげやんか」
「でもママは、Aちゃんが居たから生きてるよ」
「やったら、お互い様やな」
「それもそうね」
お父さんが『涙は芝居に取っておけ』と
作った苦い顔で、説教した。
A、私はやっぱりあなたが、一番大切だよ。
ドラマや映画で、大勢の人の『お母さん』を演じたけれど
そのどの人よりも、あなたがいい。
青山琴子は、それなりの女優っていう立場がある。
でも、ただの"こと子"としては、
『Aのママ』でしかないよ。
私を『ママ』にしてくれてありがとう。
こんなマタニティハイみたいなことばかり
今日は考えてしまう。
いい日です。
.
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作者名：ゆうみ | 作成日時：2020年2月27日 11時
