心臓を貫くのは【朔間凛月】 (ページ10)

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「ごめん、俺何も知らなくて」

Aの事傷付けたよね、と俯く凛月くんはどこまで優しい人なんだろう

足早にお兄さんの元を去り、無言で歩き続けて行き着いたのは私の住む屋敷の前だった

「ううん、大丈夫。」

凛月くんも、お兄さんも、悪くないよ
きっと、私の存在がダメだったんだ
それを伝えると貴方は悲しい顔をするだろうから伝えないでおくね

凛月くんは私の手をぎゅっと強く握り真っ直ぐこちらを見た

「俺が勝手にAのそばに居たいと思ってるから、だから自分が悪いとか思わないで」

まるで心を見透かされたかのような、そんな言葉が返ってきた

こんな時、どう返せば良いのか私は知らない
ありがとう？ごめんなさい？
複雑な感情は未だ経験したことが無いもので貴方にどうやって伝えたらいいのか分からなかった

「凛月くんまで、私の悪評に飲み込まれちゃダメだよ」

私と一緒にいることで、貴方が不幸になるのだとしたら
それは誰も幸せにならないから
私も、貴方も、周りも、きっと辛いから

「凛月くん、今日はもう帰って？」

「なんで？」

「お兄さんと、ちゃんと話さないと」

少し不機嫌そうになった凛月くんは手をさらに強く握ってきた
私だって、この暖かい手を離したくないよ

離れたくない、でも私には家族が居ないからこそ、凛月くんには家族を大切にしてもらいたい
そんな私の矛盾したわがまま

誰かに「帰って」などと言ったのは初めて
本当に、凛月くんといると初めての事ばかりだ

「また来てもいい？」

「うん、お兄さんが良いって言うならね」

「絶対、また来るから」

待ってるよ、と言えなかったのは
彼に鎖を掛けてしまいたくないから。
凛月くんのお兄さんが私を拒絶したら
もう、私たちは逢う事は無いだろう

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