【銀魂】己の行く道 途切れた糸【土方十四郎】

行き場をなくした　土方side ページ10

「……土方、さん…」


……俺の声に肩を大きくビクつかせて、ゆっくりと俺の顔を見据えた。縁側に立った俺を見据えるAの目は、驚愕に満ちていて、何かに怯えているようで、不安げに揺れているように見えた。うっすらと透明な膜が張っているのは、気のせいではないはずだ。声は微かに震えており、膝の上に乗った右手も震えている。


……その手には、赤い、リボンが握り締められている。


土「……どうした」


俺は問い掛ける。すると、Aは我を取り戻したようにハッ、と目を見開き、息を呑み込んだ。そして直ぐ様顔をまたうつ向かせると、「えっと、」と呟く。

次に顔を上げた時には、先程の悲しげな顔とはうって代わり、ヘラリとした笑みを浮かべていた。まるで、何かをまた隠しているように。偽りの笑顔という仮面を被り、その下にある感情を殺そうとしている。


「……きょ、今日はいい天気ですねぇ、ついつい眺めちゃいました」

土「そのわりにうつ向いていたが」

「眩しかったんです」

土「A」


……やめろ、と。
そう一言口にすれば、Aはその柔らかな笑みを強ばらせた。上がっていた口角は固く引き結ばれ、少しずつその顔は苦しそうに歪んでいく。慌ててつけた仮面が、ボロボロと壊れていく。

…そんな仮面は、捨てさってしまうべきなんだよ。


土「……何があった」

「……」


…縁側から降り、Aの正面に回る。その場で方膝をついて視線を合わせるようにすれば、Aは再び顔をうつ向かせてしまう。そうして、そのまま小さく小さく口を開く。


「……り、ん…」

土「ん？」


「……リボンが、」


切れちゃって、と。握り締められていたその手を開くと、そこにはほつれて切れた赤いリボンの片方だけがあった。開かれたその手に、まるで行き場をなくした想いのように、乗っていた。酷く、寂しげに。


「……片方が、風に、飛ばされて」


……どっか、行っちゃいました、と。

……その言葉の最後の方は、もうほとんど吐息だけの音になっていたが、俺はしっかりとその声を聞いた。あまりに弱々しい声に、胸のあたりが締め付けられる。


「……なくなっちゃいました」


……なんて言葉をかけたらいいのか、分からない。言葉が、見つからなかった。

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