【銀魂】己の行く道 途切れた糸【土方十四郎】

使い物にならない　土方side ページ35

……柄にもなく緊張でもしているのだろうか、俺は。さっきまで大分余裕で居たってのに、今では既にその余裕も何処へやらだ。いつになく、左胸辺りにあるその臓器は忙しく音をたてており、それになんとなく苛立ちを覚える。言葉を発しようと口を動かそうとするも、無意識のうちに躊躇うように開けたり閉じたりとしていた。

自分の足元を睨みつけるようにしながら、音にする言葉を探す。いや、言うべき言葉はそう長くはないものなのだ。たった二文字。それだけ言えれば上出来なのだ。それなのになんだこの有り様は。情けないにも程がある。こんなにも意気地がなかったのか俺は。


沖『前みてェなことはもうやめにしてくだせェ』


…と。そんな総悟の言葉が、俺に言い聞かせるかのように脳裏によぎった。前みたいに、中途半端なまま投げ出すのはやめろと。逃げ出すのはやめろと。自分のことを見ないフリして誰かの為だと理由をつけて目を逸らすのはやめろと。

ここで言えずじまいだったら、恐らく明日にはそのドS野郎に八つ裂きにされるだろう。そんなことを思っては、苦笑いが漏れてくる。そんな理由で殺されかけるのはごめんだ、と。


土「…A、」

「…なんですか？」


意を決して、俺は自分の足元からAへと視線を向けた。顔を上げた瞬間、俺の顔を窺うように覗き込んでいたソイツと目が合い、首をかしげて問い掛けてくる。下ろしたままの長い赤茶色の髪が、ふわりと風に揺られて頬を撫でていった。


…俺は口を開く。


土「……話が、あんだが…」

「それはさっき聞きましたよ」

土「そう、そんで……」


……ああクソ。早く言え、と。

内心で自分にそう言いつけるも、早々うまくはいかないもので。「用件は何なんですか」と。Aは不思議そうな顔をして呟く。真っ直ぐに見据えられると、息が詰まりそうになるのだが。


土「…、」


…それでも、言わなきゃならないことがある。


土「……、……好き…、な…」

「…好きな……、なんですか？」


土「好きな色はなんだ」


頭を抱えたくなった。この使い物にならない口をどうにかしてやりたかった。ついつい誤魔化すように口をついて出たその言葉は、心の底からどうでもいいことで、俺の顔はひきつっていく。


「…好きな色、ですか…？」

土「…ぁ、ああ…」


そんなことを言いに来たんですか、と。
少し驚いたような、全力で怪訝な顔をするAには、曖昧に頷いておくことにした。明日辺り、ドS野郎に八つ裂きにされることが確定したかもしれない。

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