【銀魂】己の行く道 途切れた糸【土方十四郎】

今日も　土方side ページ33

土方side


…それから時間は経過し、夜になっていた。

就業時間を迎え、飯やら風呂やらを済ませた俺は、冷えきった空気の漂う廊下を歩いている。着流しの上に羽織を着て。羽織を着ていないと少し寒すぎる。縁側を吹き抜ける風は冷たく、剥き出しの顔を刺すようだった。本来なら、もう布団の中に入っていてもいいのだが、そうしないのは。


土「…よォ」

「…また来たんですね」


…今日も、月が出ているからだ。

濃い藍色の空にポツンと浮かんでいる、白んだ月が、ぼんやりと辺りを照らしている。屯所の証明はすべて消されているため、月も星もくっきりとよく見えていた。加えて冬の空気は澄んでおり、いつもより輝いて見えるのだ。こんな月が出ている夜には、ここによく訪れる。


Aの部屋の前の縁側だ。いつものようにAは縁側に腰掛け、強い光を放つ月明かりを見上げていた。憂いを帯びた、今にも泣き出してしまいそうな面をして。その横顔を視界に捉えれば、いつも胸が締め付けられる。まるで、心の辺りを何者かに握り潰されているかのような痛み。そんな痛みを感じつつ、俺はソイツに声を掛け、少し距離を置いた位置に腰掛ける。


…また、想っていたのだろう。奴のことを。


…その証明に、その手には赤いリボンが握られている。月明かりに照らされた、切なげな赤色が。途切れて、行き場をなくしたかのような、それが。片方は、何処へ飛んで行ってしまったのだろう。Aの手の中で、残った片方は寂しそうに風に揺れている。


「…最近、よく来てくれますね、ここに」

土「…たまたまだ」

「…そうですか」


そう言っては、どうしてか肩を竦められる。やれやれ、と言った様子にムッとしてやれば、ケラケラと笑われる。子供のように、無邪気な笑みを見せるソイツの裏の顔は、今はどんな顔をしているのだろうか。

そんな、いくら考えても分からないことを思いながら懐からタバコを取りだし、火をつけた。


「…ここに来るたびにヤニ臭くされちゃ堪ったもんじゃないんですけどね」


なんて小言を垂れながらも、Aは足をぶらつかせながら月を見上げた。目を細めて、今はもう目の前には居ない誰かを想うように。ソイツはあの遠く離れたところに浮かぶ月を通して、遠く離れた場所にいるだろう野郎を想うのだ。


…タバコから登った煙が、そんな月を隠してしまえばいいと思うのは、最低なことなのかもしれない。


「あ、そういえば土方さん」


と。流れ始めた静寂を破ったのはAで。

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