【銀魂】己の行く道 途切れた糸【土方十四郎】

後悔の鎖 ページ4

Aside


『……お前にもう用はねェよ』


『ついて来んな』


……眩んでいく視界に、彼の背中が映っている。その背中が、いつだって私を護ってくれていた背中が、遠ざかっていく。一粒の雫が頬に流れては一瞬だけ視界がクリアになって、けれどまた同じように眩んでいく。彼がまた遠ざかる。私は声を上げたいのに、彼の名前を呼びたいのに、声が出ない。ひりついたように喉から音が出てこない。

『晋助、待って』


ーー行かないで。隣に居させて。

晋助に淡い恋心を抱いてから、ずっと、ずっと抱き続けた想い。『晋助の隣に居たい』。その想いは、大人になった今でも変わらずに存在していた。どんな場所でも、私だけは、晋助の隣に居ようと、そう思っていた。


ーー晋助、晋助。

私は声にならない声で彼の背中に叫ぶ。遠ざかる彼の背中に手を伸ばす。彼に向かって走り出そうとする。けれど、声も出なければ、私の足は動いてはくれない。伸ばした手は、空気を掴むばかりであった。足元を見てみれば、今まで倒してきた敵の骸。救えなかった仲間だったもの。

それらから伸びてきたように、真っ黒な何かが、私の足にまとわりついて離れない。引きちぎろうとしても、壊そうとしても、それは私の足を捕らえて離れない。私を晋助の元に行かせまいと、絡みついている。


……後悔の、鎖。

10年経った今でも、私をがんじがらめにして離れない、それ。私を縛り付けて、苦しめて、首を締め付けてくる、それ。何処までも私の背中を追ってきて、絶対に逃れようのできないものだった。


……そんなものに足をとられているうちにも、晋助は何処かへ行ってしまおうとしている。止めないと、手遅れになる。もう、会えなくなってしまう。私は必死に鎖を引きちぎろうとして、晋助の名前を呼び続ける。音にならない声で、叫び続ける。


…自分の信じた道を、ただひたすら、真っ直ぐに進んでいたつもりだった。その行く末には、きっと彼も居るのだろうと思っていた。晋助だけじゃない。銀時も、小太郎も、松陽も。きっとずっと、一緒に居られるんだって思ってた。笑って歩いていけるんだと思ってた。信じていた。それなのに。


…そんな期待は呆気なく奪われて、晋助の心は、私が気付かないうちに黒く染まっていて。気がついた時にはもう、手の届かない場所に彼は居たのだ。


…私は結局、何も救えないのか。
…私が弱いから、私が、気づけなかったから。

…私が。



『だから言ったろ？』




……もうお前に、用はねェってなァ。

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