４ ページ5
「帰宅ラッシュの時に乗っちゃったみたいやな」
「そうですね……端っコぐらししておきます」
ドアに寄りかかって最寄り駅に着くまで待つ。楽しそうに友達と喋る学生からくたびれた顔のサラリーマン、うつらうつらなお年寄りまで十人十色の電車内で、優と向かい合わせで立っている。
この電車の運転手は気が荒いのか運転が荒いのか、電車が左右に揺れて足が生まれたての小鹿状態になる。目の前に優がいるから、抱きつきそうで怖い。
というか今更だけど、推しとこんなに密着していていいんだろうか。もし電車内に坂田家がいて、勢いで事故が起こってその瞬間を撮られて、拡散されたら。
「A、どしたん？ 顔真っ青やで」
「え……何でもないです」
条件反射の「何でもない」が掠れてしまった。このままじゃ、坂田さんだとバレてる事がバレてしまう。危ない橋が崩れてしまう。
更に青ざめる私を、じっと見つめる優。そこからは何の感情も読み取れなくて、どうすればいいのか分からなかった。
「なぁ……」
「……はい」
言葉数の少ない会話を交わすと、優の左手が私の頬に添えられる。顔を近付けていく優との距離の近さに顔どころか全身が熱くなる。映画館でのキスを思い出して更に熱くなってしまう。
私の瞳を覗き込んだ優が、低く囁く。
「キス、期待しとる？」
「あ、え、ちが……」
違うと言いきれないのは、図星だからなのかもしれない。蕩けた頭のどこかがそう呟いた。
「……やっと顔真っ青やなくなった」
「……確信犯ですか」
「ん？ なにが？」
おどけて笑う優。遊ばれてる様な感覚に怒りたくなるけど、心配してくれていた事に嬉しくもなる。
それを伝えたいのに何と言えばいいのか分からない。このまま黙っているのが嫌で、何か言おうとしたら。
「……いじわる」
拙い響きにしかならなかった。
「意地悪でごめんなさいねぇ。もう指名せぇへん？」
「……気が向いたら、する」
「またそれかい」
互いにそれとなく見つめ合っていると、電車が駅に着いた。人気が一際多い所だから、乗り込む人が多い。さっきまで人１人分の隙間があったけど、この状況に優は距離を詰めた。その事実には気にする事は無いけど。
「あの……近すぎません？」
「しゃあないやん」
キス未遂事件の時より近くなって、ドアに手を置く優がよく見える。
「……壁ドンですか」
「そ。カッコイイ？」
「……はい」
「素直やん。カワええなぁ」
「前言撤回します」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 521人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
乃華(プロフ) - 更新、、、 (2020年10月19日 22時) (
レス) id: b0d47f7052 (このIDを非表示/違反報告)
ポップけーき(プロフ) - 浦島坂田船((箱推しさん» コメントありがとうございます。面白いと言って頂けてとても嬉しいです！度が過ぎるマイペース更新ですが、良ければ待ってやって下さい（）頑張ります！！ (2020年5月11日 23時) (レス) id: fa148e1d8c (このIDを非表示/違反報告)
浦島坂田船((箱推し - 作品読ませていただきました。さかたん落ちの小説をあまり読んでいなかったので、新鮮ですwとっても面白かったです。更新頑張ってください。 (2020年5月11日 15時) (レス) id: 923aa8cddb (このIDを非表示/違反報告)
ポップけーき(プロフ) - 陽奈さん» 返信遅くなってしまい本当に申し訳ありません。そして、初コメありがとうございます！お金は無限に必要ですね（）とてもマイペースな更新ですが、気長に待って頂けると嬉しいです！頑張ります！！ (2020年4月28日 11時) (レス) id: fa148e1d8c (このIDを非表示/違反報告)
陽奈 - 初コメ失礼します。坂田さんのためなら全財産かけたい...でも漫画買いたい...←お金っていくらあっても足りませんよね(真顔)更新楽しみにしてます！頑張って下さい！ (2020年4月3日 0時) (レス) id: c8962603e4 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ポップけーき | 作者ホームページ：知ってる事を知らないまま。
作成日時：2020年3月5日 11時
