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(続き)
目を立花から離せず,それでも何とか黒木に伝えようと,やっとの思いで肘を動かす。
幸いなことに,長年の付き合いの黒木には,それで十分だった。
通話を切る気配を感じる。
若武も小塚も,立花に気づいたようだった。
だが,誰一人として安堵していない。
当の立花が,こわばった表情のままだったから。
硬い表情のまま,立花が真っすぐ家に向かい始める。
俺らと会話する気はないようだった。
声をかけたかったけど,うかつに近づけない。
それでも何とか距離を縮めていると,しびれを切らしたのか若武が声を張り上げた。
だが,立花は憎々しげに答えるだけ。
その様子が,かつての自分に重なった。
この場所で,立花と若武のタンデムを見たあの時。
俺がいないところで楽しそうに活動している仲間に,腹が立った。
傷ついて,全てに身構えている。今の立花は,あの時の俺に似ているような気がした。俺も当時,手を差し伸べようとしてくれた立花に冷たく当たったときもあったし。
ただそんな俺に,立花は。
――俺のために,泣いてくれたんだ。
何とかしたくて,後先考えずに立花に話しかける。
焦りも相まって,つい踏み込んだことを言った。
もしかしたら,その痛みを知っている自分になら,何か話してくれるかもしれないと思って。
でも,返ってきた言葉は「関係ない」の一言。
反射的に立花をにらんでしまう。
俺にも,言えねーのかよ。
何で,お前が傷つくようなことになっちまったんだよ!
行き場のない怒りに翻弄されていると,小塚が純粋な気持ちを言葉にした。
その言葉で,ようやくいつもの立花に戻る。
続く黒木の言葉で,だんだんと落ち着いてもいった。
だが今度は,泣きそうになるのを懸命にこらえて動けなくなっている。
こうなったら,俺には手も足も出ない。
泣きそうな女子へどう声をかければいいのか,見当もつかない。
これは,黒木の領域だった。
かすかな悔しさに目をつぶって,黒木にバトンを渡す。
どうか,少しでも彼女の悲しみが取り除かれんことを。
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いしとせ(プロフ) - HUMAさん» 初めまして,HUMA様。コメントありがとうございます! 好きと言っていただけて,ものすごく嬉しいです。応援ありがとうございます,頭の中の話を全部形にできるよう頑張ります! (2017年1月31日 21時) (レス) id: 2e3c8fd945 (このIDを非表示/違反報告)
いしとせ(プロフ) - うみなさん» いらっしゃいませ,うみな様! おまけの翼は,うみな様のコメントが全ての始まりでした……おそらく,コメントいただけてなければ生まれることはなかったです(;・∀・) というわけで,こちらこそありがとうございました!m(_ _)m (2017年1月31日 21時) (レス) id: 2e3c8fd945 (このIDを非表示/違反報告)
HUMA(プロフ) - こういう本編の裏側というか、そんなお話大好きです!いしとせさんの他の作品も凄く好きです。更新頑張って下さい、応援しています! (2017年1月30日 21時) (レス) id: c49a03c503 (このIDを非表示/違反報告)
うみな(プロフ) - いしとせさん» こんにちは。黒木くんと翼のバトル!もう、大興奮でした。翼の策略も、黒木くんの想いも、全てが 物語に沿っており、楽しませていただきました(*^^*) 前回のコメで 私がポロっと口に出したことを 小説にしてくださり、本当に 嬉しいです!! ありがとうございました(#^.^#) (2017年1月30日 20時) (レス) id: 6278f7cc78 (このIDを非表示/違反報告)
いしとせ(プロフ) - こんばんは,コメントありがとうございます。桜様も黒木君と翼推しなんですか! オトナな感じですね(笑) この2人のアイディアが出ればいいんですが……いろんな組み合わせを書いてみたいとは思っています。がんばります! (2017年1月15日 20時) (レス) id: 2e3c8fd945 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:いしとせ | 作成日時:2017年1月13日 21時