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(↑〃) ページ23

(続き)



 若武は中学生であると同時に,探偵チームのリーダーでサッカーのエースストライカーだ。

 それゆえに性格は,面倒見がよくて責任感が強い。

 そして前後の行動は不明ながら,毎日夜遅くまで出かけている。その結果修道院に入ることを決意したのであれば,何らかの宗教団体あるいは宗教関係者と接触していたのかもしれない。「救済」という言葉も,その人の受け売りなのだろう。

 そこから導き出される発言の真意は,単に「若武が修道院に入ることにより若武自身が救われる」という意味か,それとも。

 ――若武が修道院に入ることで,その宗教関係者を救うという意味か。

 反射的に,勢いよく上体を起こす。

 目を見開いている少女に向かって,急いで礼を言った。

 「ありがとう,意味がつかめたかもしれない!」

 慌てて辞書を戻しにいくと,少し遅れて彼女が僕のカバンを持ってきてくれた。

 「小塚君,急いでるみたいだから。」

 気配りの細やかさに感動しつつも,急いでカバンを受け取る。

 「ごめん,今度何かお礼するね。」

 後ろ髪を引かれるものの,一刻も早くこの情報を上杉たちに伝えなければいけない。

 次に会う約束を取り付けてこの場を去ろうとした時だった。

 少女が,わずかにかぶりを振った。



 「ううん,むしろ,今日私に会ったことを内緒にしてくれれば,それでいいよ。」



 彼女の瞳を覆いつくしていた憂鬱は,また別の感情となって渦巻いている。

 それでも,最初に会ったときよりは遥かに明るい色を見せるそれに,心から喜びを感じた。

 「わかった。じゃあ,僕が『救済』の言葉の意味を調べていたことも内緒にしてね。」

 冗談めかして声をひそめ,お互いに微笑む。

 そのまま図書館の前で別れ,少女の姿が見えなくなった頃を見計らい,上杉に電話をかけた。

 そして,少女のときとは違う意味で緊張しつつ,若武のセリフから推測できる全てをそのまま伝える。

 上杉の感心している様子が伝わってきたものの,種明かしをすることはできない。

 電話が切られた後,彼からの称賛ごと心の中で彼女に送り,そっと,今日生まれた秘密を振り返る。



 おそらく今後一切,語られることのない出来事。

 交わした会話でさえ,本音を隠したものばかりだったけれど。



 あの密やかな時間が,甘みを閉じ込めた果実のように,いつか何かの糧になるような,そんな予感がした。

「あいどるおうじ〜」より,とある場面の小塚君→←(↑〃)



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いしとせ(プロフ) - HUMAさん» 初めまして,HUMA様。コメントありがとうございます! 好きと言っていただけて,ものすごく嬉しいです。応援ありがとうございます,頭の中の話を全部形にできるよう頑張ります! (2017年1月31日 21時) (レス) id: 2e3c8fd945 (このIDを非表示/違反報告)
いしとせ(プロフ) - うみなさん» いらっしゃいませ,うみな様! おまけの翼は,うみな様のコメントが全ての始まりでした……おそらく,コメントいただけてなければ生まれることはなかったです(;・∀・) というわけで,こちらこそありがとうございました!m(_ _)m (2017年1月31日 21時) (レス) id: 2e3c8fd945 (このIDを非表示/違反報告)
HUMA(プロフ) - こういう本編の裏側というか、そんなお話大好きです!いしとせさんの他の作品も凄く好きです。更新頑張って下さい、応援しています! (2017年1月30日 21時) (レス) id: c49a03c503 (このIDを非表示/違反報告)
うみな(プロフ) - いしとせさん» こんにちは。黒木くんと翼のバトル!もう、大興奮でした。翼の策略も、黒木くんの想いも、全てが 物語に沿っており、楽しませていただきました(*^^*) 前回のコメで 私がポロっと口に出したことを 小説にしてくださり、本当に 嬉しいです!! ありがとうございました(#^.^#) (2017年1月30日 20時) (レス) id: 6278f7cc78 (このIDを非表示/違反報告)
いしとせ(プロフ) - こんばんは,コメントありがとうございます。桜様も黒木君と翼推しなんですか! オトナな感じですね(笑) この2人のアイディアが出ればいいんですが……いろんな組み合わせを書いてみたいとは思っています。がんばります! (2017年1月15日 20時) (レス) id: 2e3c8fd945 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:いしとせ | 作成日時:2017年1月13日 21時

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