天才と凡人�� ページ15
NOside
何年もの間、重賞騎乗依頼はあってもG3で勝ちに恵まれなかった百合。
そんな中、G2騎乗の依頼が舞い込んだ。
今までメインレース(その日の目玉)に騎乗した経験はなかった上、G2に騎乗できるなんて...と涙を流して喜んだ。
それは、百合の日々の努力と関係者と築いてきた信頼があったからこそで、調教師が馬主に頭を下げて頼んだそうだ。
G2騎乗依頼が来たのは、デビューからずっと騎乗していたドンという名前の馬。
希少が荒く百合以外が近づけば蹴り、3人もが病院送りにされた。
だいぶ崖っぷちなドンだが勝つからそれが許される。
勝たなければ処分される。
厳しい世界だがそれが現実だった。
そんなドンと共に出る人生初のG2。
もう、女で一般家庭出身で、そんなに騎乗も上手くない自分には二度とこない依頼。
絶対に勝とうね？
そうドンに語りかけた百合。
当たり前だと言いたげに
レースの日。同じ日の新馬戦に騎乗していた和彦も同期のアイツが出ると聞いて、いても立ってもいられなくなりレースを見に来た。
「あの子、すごいよな。上手に乗る」
「だよな！それに気性の荒い馬によく好かれる。おかげで調教が随分楽になったよ」
「騎乗は12番人気のドンか。騎手が良いし、馬の調子もいい。ワンチャンあるだろうな」
先輩騎手達と調教師、
「あの子は"天才"だ」
和彦は模擬レースで一緒に走ったり、授業で百合を見てずっと分かっていた。
百合は天才で、自分は...凡人であったと。
凡人が天才に突っかかってライバルを演じて、優越感に浸っていた。
馬たちがゲートに収まり、一斉にスタートしたときにすぐどこに百合がいるか分かった。
最後方。
和彦は終始逃げて勝つのを得意としていた。
でも、百合は最後の直線はいつも和彦の馬を追い越してゴールした。
追い込む勝ち方を得意としていたのだ。
ーーあいつは、俺をライバルだと思ってくれていただろうか？
悔しさで滲む涙を必死で抑えながら叫んだ。
「ドン、百合！！行け！！！勝て！！」
だが、最後のコーナーを曲がったとき、
一頭の馬が崩れ落ちた。
周りから聞こえるのは悲鳴。
あるいは怒号。
あるいは歓喜。
ーー俺が、最初からずっと目で追ってた馬。
ーー俺が、ずっと目を離せなかったアイツ...
ゴール版を駆け抜けたのは違う馬だった。
和彦は、その現実が受け入れられなくて、放心状態だった。
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作者名：伊織 凛 | 作成日時：2023年6月18日 15時
