ニセモノは……*65 ページ25
「A、泣いてるん……？」
「……ぅ、」
「あぁ、可哀想に……、大丈夫やで俺がおるからな」
ポンポンと一定のリズムで背を軽く叩かれる。
その優しさに涙が余計に出そうになってしまう。
「さかた、」とポツリと声をかけると「うん？」と優しい声で返される。
それだけで涙が零れそうになるほど私の精神はボロボロだ。
「……うらたも、志麻も、センラも、皆違うの。なんで…もう、意味がわからないの」
「……」
「どうしよう、坂田………もう、嫌だ」
私の言葉を聞いた瞬間、ポンポンと叩いていた坂田の手が止まった。
「それは、ちょっとちゃうな？」
いつもの優しい声で言われた筈なのに、寒気がする。
彼は、坂田だけは、私の味方でいて。
全身の震えが、止まらない。
「………やだ、」
「え？」
「…………坂田まで、坂田まで私を裏切るの……？」
「A……、」
「やだよ、もう………、ニセモノ1人じゃなかったの？もう3人もいるんだよ……」
ほとんど声になっているかすら分からなかった。
左右反対のこの世界が気持ち悪い。彼らが彼らじゃない事に吐き気がする。
早く、早くホンモノの彼らに会いたい。
「ニセモノは1人ってずっと言ってんじゃん」
その時、ずっと黙っていたうらたが吐き捨てるように言葉を発した。
それに重ねるように坂田が「A、」とすぐ近くで声を発する。
「うらさんも、まーしぃも、センラも、みーんなホンモノやで？」
「……何、言って、」
「………………かわい、A」
耳元で吐息と共に囁かれた声に全身の鳥肌が立ち、頭の中で危険信号がけたたましく鳴り響く。
思わず反射的に彼から体を離す。
坂田は、笑っていた。
「え、なんで逃げるん？」
「や、やだ……来ないで、」
「なんで？俺、Aの事好きやもん。Aも俺の事好きって言ってくれたやん」
「ちがっ………、」
目の前の彼が誰なのか、もう分からなかった。
本当は信じたい。信じたいのに、本能が逃げようとする。
「………貴方は、誰？」
私の言葉に坂田は口を閉じ、俯いた。
口元だけ見える彼の整った顔。
( やだ、やめて )
『ずっと前から、ずっと好き、やった』
『Aは、俺のこと好き？』
その口元は、＿＿＿＿妖しく歪んだ。
「俺は、坂田やで？どうしたん、A」
真っ赤な髪と同じ色の真っ赤な瞳。
いつもキラキラとしていて私を元気づけてくれたはずのその瞳。
それはどこまでも赤で、どこを探しても光が無かった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 763人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「歌い手」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
菊香(プロフ) - Reigaさん» 返信遅れて申し訳ございません（ ; ; ）初のホラーに挑戦してみたのでそう言っていただけると嬉しいです〜！読んでいただきありがとうございました* (2021年6月14日 21時) (
レス) id: eddd78d9f3 (このIDを非表示/違反報告)
菊香(プロフ) - 恋羽音さん» 返信遅れてしまい申し訳ございません（ ; ; ）たくさん考えて読んでくださり嬉しい限りです！個人的に頑張って考えたお話だったのでそう言っていただけるとありがたいです(^^)読んでいただきありがとうございました* (2021年6月14日 21時) (レス) id: eddd78d9f3 (このIDを非表示/違反報告)
Reiga - スッッッゴイコワカッタ、、、面白かったです (2021年5月25日 22時) (レス) id: de484b603d (このIDを非表示/違反報告)
恋羽音 - 今更ですが、最初から一気に読ませて頂きました。伏線の敷き方がとても上手で、とても面白い作品でした！途中、「urtさんか？…smさんかも…」と悩んでいたのですが、ラストに全てひっくり返されました！鏡の世界のニセモノ、ホンモノというのがとても良かったです！ (2021年3月30日 18時) (レス) id: 018cf43ff1 (このIDを非表示/違反報告)
菊香(プロフ) - みほろさん» 半年遅れての返信本当に申し訳ございません（ ; ; ）たくさんの嬉しい言葉、ありがとうございます！とっても嬉しい限りです(*´艸`*)読んで頂きありがとうございました* (2020年12月28日 21時) (レス) id: c2572f788b (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
