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「まだ、あの日の事を引きずっているのか?」
あの日のこと。
Aにとって、それは忘れられない日。
きっと、忘れる事はない。
「はい。それに、私は表舞台に出て行くつもりは欠片もありません」
Aはいつものようにきっぱりと返す。
しかし、早乙女は “ いつも ” とは違った。
「欠片も……か。
お前が欲している物を私が提示したら……どうする?」
早乙女の、普段と違う様子にAはやや戸惑う。
道化の仮面がとれかけているような、近寄り難い彼の声音。
それは彼の言葉に重みを持たせるのに十分だった。
Aの欲している物。
それはただ一つ。兄の情報だ。
Aの兄は数年前に姿を消した。
誰にも、なにも言わず……。
だから、Aは兄の行方を探っていたのだ。
早乙女はそれを知っている。
まさか……という思いを抱きながら、Aは早乙女に問うた。
「お兄ちゃんの情報、何か掴んだの……?」
その質問に、早乙女は何も答えなかった。
聡明な彼女は、早乙女の考えを理解する。
「歌……。それだけなら、表舞台にでてもいい。
お願い。教えて」
早乙女は、ようやく了承した彼女に感謝しつつ、
「詳しいことは会って話したい。事務所の場所は分かるな?」
通話を切ると、時間を確認する。
今は6:13
約束した時間は10:00
Aは支度を少しずつ始めていった。
Aの目の前ですっと自動ドアが開き、シャイニング事務所へ入る。
カウンターで名前を言えばいいと言われていたため、
「雷です」
とだけスタッフに伝える。
カウンターにいた女性はそれを聞き、メモをちらと見て笑顔を浮かべる。
「社長に用事のある方ですね。お話は伺っています。こちらへ」
Aを先導し、早乙女の待つ社長室へと彼女は足を進めた。
スタッフはまだ仕事が残っていたのか、Aに『この通路の突き当たりの部屋に行って下さい 』と伝え、辞儀をして戻っていった。
Aはスタッフに言われたとおり、まっすぐ歩いてゆく。
白い通路は彼女が一人で歩くには広すぎる程の幅で、
他には誰もいなかった。
大きな威圧感のあるドアの前まで来ると、Aは小さくため息をついた。
このドアを開けたら、もう元の生活は出来ない。
でも代わりに、お兄ちゃんの情報が得られる……。
Aは僅かな不安と期待を胸にドアをノックした。
「ハーイ。入っていマース」
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十六夜星夜(プロフ) - 言音さん» ありがとうございます! 今直しました。 (2015年10月28日 21時) (レス) id: 03b61e41c3 (このIDを非表示/違反報告)
言音(プロフ) - 続き楽しみにしています。あのー、すみません、32話ならなくてが、なりにくてになっているみたいです (2015年10月28日 21時) (携帯から) (レス) id: 2111e957d4 (このIDを非表示/違反報告)
十六夜星夜(プロフ) - 言音さん» 登録ありがとうございます! 今直しました。確かにその方が違和感がありませんね。ご指摘ありがとうございました! (2015年10月3日 11時) (レス) id: 97a18e3294 (このIDを非表示/違反報告)
言音(プロフ) - お気に入り登録させていただきました。続き楽しみにしています。あのー、文章なのですが、うかがってありますではなく、うかがっていますの方がいいと思います。突然すみません… (2015年10月3日 11時) (携帯から) (レス) id: 2111e957d4 (このIDを非表示/違反報告)
なまけ(プロフ) - 十六夜星夜さん» うん!!頑張って!!更新楽しみにしてまーすd(´▽`) (2015年9月30日 20時) (レス) id: a890b1cbfe (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:十六夜星夜 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/indigo09261/
作成日時:2015年9月29日 20時