君に縋る【アレスの天秤】2

４５話 ページ3

そこにはどんよりとした暗い憎悪に似た感情がある。

…ただの夢なのにここまで怒るやつはいないだろう。
その上残念なことに彼は冗談ではなく本気だ。

「今日も大好きだよ」

熱のこもった目で見てきても何も出ないからな！
恨み辛みを口にせず必死に抑えた。


彼の名は野坂悠馬。
彼は今日も私に歪な好意を抱いている。

これが一番深刻な問題だった。

今はまだ過保護やら心配性やらでなんとか納得できそうな程度だが、
この後、良い方か悪い方か…どちらに進むかなんてそんなの彼次第かもしれないが…非常に不安でしかない。

今でさえ、誤解のないようにそして感の鋭い野坂を納得させるため言葉を選ばなければならないのに…他にどこを気配ればいいのか。

「大好きなAちゃんの力になりたいんだ」

「…。
私が朝弱いの知ってるでしょ。だから不機嫌に見えるんじゃない？」
だからこの話は終わり！

パンッと手を叩いて、どんよりとした空気をぶち壊す。

「え？あ…」
野坂をスルーして、今日着る服を取り出したりと外に出る準備を始めた。


既に準備をおえている野坂を待たせるのも癪だからだ。

「もっとゆっくり準備してもいいんだよ？……Aちゃんの着替えてるところ見てるの好きだから」

「変態発言やめようか！？」

流石野坂、最後まで私の期待を裏切らない。





拝啓、ヒロトくん。

いかがお過ごしでしょうか。
貴方を思い出してからかれこれ一年が経ちました。

相変わらず帰る道もわからないまま、そして私にくっつく奴も手強いです。
貴方から男心をというものを学んでおけば良かった…！！


いつもと同じように神に強請る心地で念じながら、手元のシャツに袖を通す。


「それ、僕の服」

「へっ！？…ごめ、…悠馬くん？」
急いで脱ごうとすると彼に手を掴まれて止められた。

「せっかくだからよく味わってよ。僕がいつも着てる服の肌触りとか匂いとか、…。
Aちゃんなら僕のを好きに使って構わないから…ね？」
ゆっくりと後ろに回られて抱きしめられたが、後ろにいる彼の様子がわからないので恐怖が私の中を占めた。

(怖い！なんか怖い！！)

声色だけでは、服を間違えた私に対して怒っているのか、軽蔑しているのかわからず、身を固くした。

「…Aちゃん。僕の服…そんなに嫌い？」

「あ、いや…そんなことはないけど…」

「…。じゃあ今日一日それ着て」

「え！？」
私から離れた野坂はあからさまに怒ってた。
…やっぱり男心がわからない。

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