vol.49 ページ7
「あれ、ご存知だったんですか？」
音楽記号の『fine』は楽譜に書かれている『終わり』の意味。
あんまり演奏に関しては深入りしなかったから、楽譜の読み方には自信がないけれど。
それでも繰り返しがある曲の中で、ここで終わりだと告げる記号というのは知っている。
「俺も昔はピアノをやってたんです。」
「ピアノ？」
「男がピアノなんて変かもしれないですけど、好きだったんですよね。」
ピアノの事を話す伊野尾さんの目はとてもキラキラしていて。
まるで少年みたいだなって思えた。
きっと彼はピアノが好きなんだなって、そう思える輝きだった。
「俺のピアノが好きだって言ってくれる友達がいて、さっきも誕生日プレゼントだって駅前のプリンのキャラメル味を届けてくれたんです。」
「キャラメル味？」
「あれ、知らないですか？新商品らしいですよ。」
最近はあの周辺に用事が無いから知らなかった。
また明日にでも行ってみようかな。
「俺も明日食べるんで、ワクワクしてるんです。」
恐らく冷蔵庫に入れてるのであろうプリン。
初めて俺がここに来た時も同じ光景だったな。
「あ。」
時計に目をやると7時50分になっていた。
時間を忘れる、なんてことは滅多にないのに不思議と時間が早く過ぎた。
「伊野尾さん、最後に一つだけいいですか？」
キョトンと首を傾けて、俺の目を真っ直ぐに見つめる。
前に来たときに高木さんに言われた言葉を思い出した。
『ついさっきまで泣いちゃってて…。』
『手術は受けない、って言われちゃって。何か知りませんか？』
その時は何も言えなかった。
だけどその原因が少なからず俺にあることは分かっていた。
伊野尾さんの力になりたい。
俺に出来る事なら何でもやる。
その約束はまだ、果たせていないのではないか。
「話、聞いてくれてありがとうございました。何というか……すごく心が軽くなった気分です。」
「ふふ、良かったです。あっ！こちらこそありがとうございます、誕生日プレゼント。」
「いえ、気にしないでください。」
そろそろ面会終了の時間だ。
俺は立ち上がってドアの方に向かう。
もう残された時間はない。
だからメールで伝えようと思ったけれど、どうしても今言わなきゃいけない気がして。
「……あの、伊野尾さん。」
「はい？」
「手術を受けないなんて悲しい事、言わないで……。」
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天凪(プロフ) - Blue Whiteさん» たくさんの嬉しいご感想ありがとうございます。そんな風に思っていただけるだけでも幸いです。お礼を言うのはこちらの方です。本当にありがとうございます、これからも頑張りますので応援よろしくお願いします。 (2017年9月9日 0時) (
レス) id: a99f998358 (このIDを非表示/違反報告)
天凪(プロフ) - blue catさん» こちらこそ素敵なご感想ありがとうございます。最後まで読んでくださって、更にはご自身の体験に重ねて考えていただけるなんて本当に光栄です。このお話が何かのきっかけになれば幸いです。応援しています、頑張って下さい！ (2017年9月9日 0時) (レス) id: a99f998358 (このIDを非表示/違反報告)
Blue White(プロフ) - はじめまして。このお話はすごく文章が綺麗で、物語にのめり込みながら読んでいました。とっても感動できる作品でした。「ありがとう。」って言いたいです。これからも頑張ってください。応援しています。 (2017年9月7日 18時) (レス) id: 96f5815679 (このIDを非表示/違反報告)
blue cat(プロフ) - 本当に感動しました！！私自身、ずっと”才能”という言葉に囚われていました。今でも、逃げてしまいたくなるくらい、泣きたくなるくらい、周囲との力量の差を感じることがあります。でも、この小説を読んで自分の気持ちと向き合おうと思いました！有難うございました！ (2017年9月3日 20時) (レス) id: 2b68782549 (このIDを非表示/違反報告)
天凪(プロフ) - くるみさん» お返事遅くなってすみません…！嬉しいご感想本当にありがとうございます。皆様の応援あってこその作品でした！またいつでも覗きに来てくださいね！ (2017年6月6日 18時) (レス) id: a99f998358 (このIDを非表示/違反報告)
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