vol.58 ページ16
音楽関係の仕事をしている両親を持った俺は、最初のうちは両親の為にこの道を選んだ。
もちろん詞を書くことも好きだったし、自分にピッタリな仕事だなって最初の頃は満足していた。
俺の才能を評価してくれる関係者。
自分たちと同じ道に進んでくれたことに満足している両親。
挫折とは無縁な天才の光。
そんな存在に悩まされて。
皆が見ているものが何なのかを知ってしまって。
そんな時に『青空日和』で仕事とは一切関係のない、本当の俺を見てくれる伊野尾と出会った。
それがもし、神様の小さな後押しだとしたならば。
俺はきっとその後押しを無駄にはしない。
押されたそのままに、ずっと歩いていける。
そうして俺は逃げるのをやめた。
もう終わりのない鬼ごっこは終わったんだ。
その場に立ち止まった俺は180度反対方向を見る。
そこには俺が情けなく逃げてきた、フラフラとした足跡があるだけ。
その足跡は消せない。
だけどこれからの足跡は変える事が出来る。
俺を追いかけていたものの正体を一目見てやろうと振り返ったのに、そこには何もなかった。
いや、実際には何にも追いかけられていなかった。
追い込んでいたのは自分だ。
過去の自分、自分の才能、それから挫折という名の絶望。
立ち向かわなければ、何も変われない。
そう教えてくれたのは、他でもない伊野尾だった。
ペンがすらすらと信じられないくらいに軽く、そして速く動いている。
まるでペンに意思が宿っているように。
もう大丈夫だ。
逃げたりなんかしない。
立ち向かうって決めた。
そうしないと、きっと未来は変えられない。
踏み出さなければ変えられる未来も変わらないままになってしまう。
現状を変えたいのなら、嘆く前に動かなきゃ。
それも涙ながらの君が教えてくれた大切なこと。
だったら俺も同じことを返そう。
場所なんて関係ない。
病室から出られない自分をひどく嫌っていたようだけど、それは違う。
君は病室の中に居ても、俺にはない綺麗な物をたくさん持っていたのだから。
伊野尾さん。
貴方に貰った勇気を俺は何か、返せましたか。
ペンが動きを止めた。
その一ページには、何ページも失敗してやっと完成した宝物が生まれていた。
まだ信じられずに震えている左手で、最後にそっと『fine.』と小さく書き添える。
その瞬間、手術室のランプが消えた。
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天凪(プロフ) - Blue Whiteさん» たくさんの嬉しいご感想ありがとうございます。そんな風に思っていただけるだけでも幸いです。お礼を言うのはこちらの方です。本当にありがとうございます、これからも頑張りますので応援よろしくお願いします。 (2017年9月9日 0時) (
レス) id: a99f998358 (このIDを非表示/違反報告)
天凪(プロフ) - blue catさん» こちらこそ素敵なご感想ありがとうございます。最後まで読んでくださって、更にはご自身の体験に重ねて考えていただけるなんて本当に光栄です。このお話が何かのきっかけになれば幸いです。応援しています、頑張って下さい！ (2017年9月9日 0時) (レス) id: a99f998358 (このIDを非表示/違反報告)
Blue White(プロフ) - はじめまして。このお話はすごく文章が綺麗で、物語にのめり込みながら読んでいました。とっても感動できる作品でした。「ありがとう。」って言いたいです。これからも頑張ってください。応援しています。 (2017年9月7日 18時) (レス) id: 96f5815679 (このIDを非表示/違反報告)
blue cat(プロフ) - 本当に感動しました！！私自身、ずっと”才能”という言葉に囚われていました。今でも、逃げてしまいたくなるくらい、泣きたくなるくらい、周囲との力量の差を感じることがあります。でも、この小説を読んで自分の気持ちと向き合おうと思いました！有難うございました！ (2017年9月3日 20時) (レス) id: 2b68782549 (このIDを非表示/違反報告)
天凪(プロフ) - くるみさん» お返事遅くなってすみません…！嬉しいご感想本当にありがとうございます。皆様の応援あってこその作品でした！またいつでも覗きに来てくださいね！ (2017年6月6日 18時) (レス) id: a99f998358 (このIDを非表示/違反報告)
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