深夜の帰り道（２） ページ36
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こんなにもゆっくり仁兎くんと話をしたのはいつぶりだろうか。
会えていなかった間の空白を埋めるように言葉を重ねる。
誰とこんなことがあっただの、美味しい店を見つけただの、そんな、どうでもいい話。
ESのすぐ近くにある社員寮まではそんなに距離はないため、歩幅はいつもより小さく遅い。
この時間がずっと続けばいいのに。
なずな「ちょっと遅い時間だけど、寄り道してもいい？」
私の脳内を読み取ったかのようにそう提案する仁兎くん。
「うん、いいよ。」
勿論答えはイエスだ。
この時多分お互いに勘付いていたと思う。
告白の返事はきっと今日だろう、と。
私はずっと切り出し方を決めかねていた。
仁兎くんはいつもよりほんの少し気を張っているような感じがした。
きっと今日を逃したら一生言えない気がしていたけれど、口に出すよりも先に寮についてしまいそうだった。
仁兎くんが寄り道を提案してくれたけれど、それもほんの少しの気休め程度の時間しか残っていないだろう。
さっきまで多くの言葉を交わしていたことが幻だったかのような沈黙。
仁兎くんはどこに向かおうとしているのだろう。
なずな「Aちん、顔上げてみて。」
「？」
突然足を止めてそう告げた仁兎くんに倣って顔を上げる。
「…！」
なずな「すごいだろ！ここ見つけた時、Aちんにも見せてあげたくて。」
そこには、満天の星空という表現がよく似合う夜景が一面に広がっていた。
勿論、ES周辺では星空が見えるわけがない。
少し高台から見下ろす人々の営みが星のように輝く人工の星空。
今まで夜景を見てキレイだなんて思ったことなかったのに、柄にもなくそんなことを思った。
仁兎くんの隣だからっていうのもあったのかもしれない。
「…好き。」
なずな「えっ？」
こんな突拍子もなく言うつもりなんてなかったのにぽつりと呟いた“好き”の言葉が仁兎くんの鼓膜を震わす。
なんで私はいつも心の準備ができないまま口に出しちゃうんだろうか。
やってしまったと思って恐る恐る顔を上げてみるけれど、そこには余裕のあるに〜ちゃんはいなかった。
「もしかして…照れてる？」
街の明かりに照らされ赤らんだ頬が目に飛び込む。
なずな「だ、だって！こんにゃきゅうにいわりぇりゅとおもわみゃかったんら！」
焦った時の癖が出てて必死に顔を隠そうとしている仁兎くんが愛おしく思う。
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作者名：小野屋 | 作成日時：2021年2月6日 18時
