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人格 ページ25

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「俺、此処に来てどれくらい経ったんだァ?」

 俺の前に歩いているアザミに聞いた。

「は?そんな経ってないでしょ。ちゃんと私が数えてんだから」

 そう言ってアザミは服の衣嚢(ポケット)から手持ち時計を取り出し確認する。よく見ると普通の時計ではなかった。書かれている字は俺の知っている一刻の字ではなく、漢数字が書かれていた。でも数は十までしかない。

「まだ"五"じゃない。これだけあれば十分よ」
「どういう事だァ?」
「言ったでしょ。この世界は薊美Aの過去(ナカ)の世界。まず他人が立ち寄れる所じゃないの。で、この私。もう一人の薊美Aも存在しない人物。つまり此処にある世界は存在していないの。あー正しく言えば存在"していた"けど今はもう居ない…みたいな、意味分かる?」
「…まァ、何となく」


 確かにこの世界は普通じゃない。薊美Aの過去(ナカ)の世界、が一番正しい表現だろう。それを時の操作を可能にするもう一人のアザミこと薊美Aがこの世界にいる唯一の人間だ。この薊美Aは元々俺の知っている薊美Aだった。そう、(よわい)十までは。彼女は二人で一人だった。
 しかし十の時に彼女は二人になった。いや、実際そのうちの一人は存在していないし現に過去(ナカ)でさ迷っている訳だが。人質になる時、薊美Aの脳内にはひとつの"前提"があった。それは勿論、"家族を護る事"だ。何故人質になれば家族を護れる事になるのかは残念ながら不明だが、彼女は何としてでも家族を護りたかった。
 だが家族を護る為には家族の元を去らなければならなかった。(よわい)十の子供がそんな現実を突き付けられて「はい分かりました」と、すんなり受け入れる事が可能であったか?否、やはりそれは難しい事であろう。不安、恐怖、動揺、畏怖…数々の感情が彼女を襲った。
 行きたくない。離れたくない。人質になりたくない。戻りたい。愛されたい。家族に会いたい。そんな感情が芽生えてしまうのも無理はないだろう。

「逃げちゃいなよ」
「…ダメだよ」
「何で自分ばかりこんな苦しい思いにならなきゃいけないの?」
「…仕方、ない」
「仕方ないで済ましちゃうの?ねぇ何で?分からない、分からない」


そんな複数の邪心から、ひとつの人格が生まれてしまった。


「私は愛されたい。家族に会いたい。だから人質にならない。行かない。だから逃げるわ」


 ──────それが、アザミ。


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うぇすとり?ぁー(プロフ) - 大ファンです!完結おめでとうございます!伏線回収も回想シーンも最高でした!自分はアザミちゃんが好きです。 (2021年10月3日 23時) (レス) @page48 id: 9275faa17d (このIDを非表示/違反報告)
ライアミ - めっちゃ泣けたヨ!布団がめちゃくちゃ濡れてんだけど……………ヤバいネ。感動をありがとアル!泣くことや笑うことはストレス発散になるからネ!終わりヨ! (2021年3月28日 1時) (レス) id: 2c479952a6 (このIDを非表示/違反報告)
いくま(プロフ) - 光華さん» コメントありがとうございます。光華さん、いつも自分の作品にコメントしてくださって、本当にありがとうございます!鬼滅作品を思う存分書いた後、すぐに銀魂復帰しますので、約束です! (2021年1月25日 0時) (レス) id: 611a77bbbd (このIDを非表示/違反報告)
光華(プロフ) - 完結おめでとうございます!次も鬼滅ですか!銀魂も鬼滅も好きなので!! 銀魂作品更新応援してます!何時までも待ってますんで、虚無感ゆっくり消化してください (2021年1月24日 18時) (レス) id: a571740452 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:いくま | 作者ホームページ:http  
作成日時:2021年1月18日 20時

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