人質の愛し方【不死川実弥】

原因 ページ24

.


　恐る恐る聞いてみる。しのぶさんは｢ごめんなさい、それは私にも分かりません｣と困り顔で私に謝った。何故、彼は目を覚まさなくなったのか。原因は…もしかして自分なのでは？と、考えれば考える程どんどん悪い方向へ進んで行く。私が狼狽えているとしのぶさんが｢大丈夫｣と言って背中をさすってくれた。少し安心する。

｢一応、いつまで眠り続けるか分かりませんので点滴だけしておきますね｣

　蝶屋敷から持ってきますから、と言って微笑んでいた。あぁ、何て強い女性(ひと)なんだろう。自分もこれくらい強くなれたらいいのに。

｢…あり、がとう…ございます｣

　でも自分はお礼しか言えない。弱い。顔を下に向けて私はそう呟いた。



.



　彼、実弥が眠り続けてもう一週間が経過していた。周りの柱の人達も心配してよくお見舞いに風柱邸まで来る。五日前は冨岡さん。四日前は煉獄さん。三日前は蜜璃さんと伊黒さん。二日前は悲鳴嶼さん、その後に時透君。昨日は宇髄さん、その後に二度目の冨岡さん。しのぶさんは彼の容態を確認する為何度か来てくれた。後は毎日、実弥の弟さんがこっそりお見舞いに来てくれた。
　一応点滴をしているので栄養は取れている。私が出来る事は点滴の付け替え、毎日濡れた手ぬぐいで彼の身体を拭く事くらいだった。あとは彼の手を握ってただひたすら待つだけ。たまに彼の手がピクッと動くととてつもなく嬉しい気持ちになる。
　ずっとずっと待っている。私は今日も彼を待っている。謝りたい事がある。伝えたい事がある。感謝したい事がある。貴方に出会ったあの日、私は彼に会うのが"二度目"だった。約束した事をちゃんと伝えたくて。怒られた事をちゃんと謝りたくて。なのに、弱い私は声を出す事が出来なくて。
　伝えたかった。"ありがとう"って。謝りたかった。"ごめんなさい"って。
　貴方は、私が子供の時からずっと私を護ろうとしていた事を、心から感謝したかった。


｢…実弥｣


　ねぇ、実弥。起きたら、私の話を沢山聞いて欲しい。言葉足らずで、時間がかかるけど…ちゃんとゆっくり伝えるから、聞いて欲しい。




　───それまで、待ってるよ。待ってるから。




.

人格→←睡眠

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す