絶対に医者にさせたい先生VS絶対に結婚したいヒロインVS何も知らない男

第8章 君と放課後 ページ22

.


「何だったんだ…？村田の奴」
「……さ、さあ」

　廊下の隅に不死川くんを呼び出した瞬間、タイミング悪く隣のクラスの村田くんに話しかけられた為、私と彼の間に微妙な空気が発せられた。気まずいというのはこの事であろう。
　しかしその瞬間、狙ったかの様に宇髄先生が血相を変えて、いや、むしろ超笑顔で村田くんの肩を掴み回収して行った。不死川くんは何が何だか分からない様子であったが、そんな姿さえ可愛い、尊い、無理最高神よ世界よありがとう。後でお賽銭しとこう。

「あ、と言うか、何か用だったかァ？」
「……！」

　来た。来た。来た。遂に来た。その言葉を聞いた瞬間、全身に鳥肌が立ってしまった。かなり緊張しているのは分かりきった事だ。私は拳をギュッと握り締め、ひとつ呼吸を整えて口を開いた。

「あの…今週の日曜日って、空いていますか！予定や都合など……あ、ありませんか！」
「今週？」

　勇気を出して彼に都合を聞いた。彼はスマホを取り出し、スケジュール管理アプリを起動している。そのひとつひとつの指の動きでさえ自身の動悸がおさまる気配はない。冷や汗も止まらない。予定は、既にもう入っているのだろうか。

「あー、弟妹達を公園に連れて行く約束してたわァ」
「……あっ、そ…っ、うです、か」

　過度な期待はしてはいけない。そう自分に言い聞かせていた筈だったが、やはり本当に予定が入っていると分かってしまうとあからさまに動揺してしまった。不死川くんは何も悪くないのに、何だか申し訳ない。

「…何かあったのかァ？」
「！いや、何でもないです！全然大丈夫ですから、」

　無理やりにでも口角を上げて乾いた笑顔を見せた。今の自分はどれくらい不細工なんだろう。きっと鏡で見た自分と正反対の表情なのだろう。大丈夫、たとえ歪な笑顔でも彼の前では笑っていたい。
　そして一刻も早くこんな顔を見られたくないため自分の教室に戻ろうと思い、彼に背を向けたその瞬間。

「待て」
「え、」

　いきなりであった。彼は私の右手を急に掴み、自分の方へ引き寄せたのだ。やばい右手が暴れる。厨二病的な意味とかでなくて、彼の神聖なる手が尊すぎて私の邪心が暴れるという意味だ。よし、意味が分からない。

「志崎…今日の放課後、暇かァ？」
「……………………絶対暇です」
　
我ながら秒速最高速度で連続肯定をした瞬間だったと思う。罪深き彼、不死川実弥様様。今日もイケメン。

次ページ→←前ページ

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す