絶対に医者にさせたい先生VS絶対に結婚したいヒロインVS何も知らない男

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　放課後にどこかへ寄り道をして帰るなんて、この十七年間の中であっただろうか。私の日常といえば学校では勉学を励み、そのまま真っ直ぐ帰宅。明日の予習と今日の復習を完璧にして就寝。その繰り返し。そんな日々に寄り道の"よ"の字なんてモノは存在しなかった。存在しえなかった。
　そんな私が、今、初めて、この場で、学校帰りに寄り道をするという悪知恵(楽しさ)を獲得したのである。

「此処、餡蜜とおはぎが美味ェんだよなァ」
「そそそそそそそうなんだ」

　バグった中古のテレビか、と言われてもおかしくないくらい動揺しながら私は首を縦に何度も振り回した。この際ヘドバンでも良い。
　今私達は何処に居るかと言うと、駅の近くにある和菓子専門店のカフェであった。メニューを開けば餡蜜、お団子、水羊羹、おはぎ、抹茶アイス、饅頭、等々。沢山の和のスイーツが並んであり、お値段も学生に優しいお手頃価格、雰囲気も静かでとても心地が良かった。

「志崎は何頼むんだァ」
「あ、じゃあ…餡蜜にします」

　赤く染った頬を両手で仰ぎながら私はそう答えた。その際不死川くんに暑いのかと聞かれたが全力で否定した。貴方が美しすぎて興奮してるんですなんて口が裂けても言えない。

「不死川くんは…何頼むんですか」
「ん？俺ァ…おはぎ」

　ニッと歯を見せて照れる様に笑う彼を目視した。やばい、口から血が飛び出そう。全身の穴という穴から血液が発射してもおかしくない程の威力ありがとうございました。神よ、多分彼は前世に国か何かを救ったんでしょう。いや世界を救ったのかな。納得納得、これで模試に出ても対応出来ます。
　あまりの尊さに無言で合掌ポーズをしていると彼は私の方を見て「もういただきますしてんのかよォ」と笑った。いただきますて。不死川くんのいただきますボイス頂きましたそろそろ呼吸困難で死ぬ。

「…あの、何で私なんかを誘ってくれたんですか」

　頼んだスイーツが来るまでの間、一番聞きたかった事を恐る恐る聞いてみる。急な放課後のお誘い、どう考えてもこの立ち位置は自分ではなくても良いはず。それこそ伊黒くんとはクラスが違うが仲が良い事くらい私でも知っていた。
　だからこそ、謎だった。不死川くんみたいな素敵な人が、勉学でしか取り柄のない私を放課後のお時間を割いてまで相手をしてくれるなんて、夢でも有り得ない事に等しい。

「……不死川くんは、優し過ぎますよ」

　──────その優しさは、時に人を傷つける。

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