絶対に医者にさせたい先生VS絶対に結婚したいヒロインVS何も知らない男

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　──────その優しさは、時に人を傷つける。

　暫くの間、私と不死川くんの間で沈黙が続いた。こんな気まずい雰囲気を作ってしまうのなら言うんじゃなかったと、一人悶々と後悔の意が募る。
　すると、その重苦しい場をリセットするかの如く彼が口を開いた。私は咄嗟に俯いていた顔を目の前の彼の方へ大きく向けた。

「なァ」
「！は、はい」

　空気が凍りつくかと思った。先程までの温厚な表情の彼とは手のひらを返した様に急変して、凍(い)てつく冷たさとその鋭い眼光は今の私にとっては恐怖にしかならなかった。怖い、怒らせてしまった。そんな言葉が脳裏にチラつく中、私は彼の目をしっかり合わせて返事をする。

「俺、中学ン時結構荒れててよ」
「……」

　ポツリ、ポツリと。彼は自身の指を見ながら話し始めた。私の知らない不死川くんの昔話、興味無い訳がない。私は黙って彼の話を聞いていた。

「反抗期ってのもあったし、俺ン家(ち)母子家庭だから同級生からの視線っつーのもあって、色々面倒くさくてよ」
「……うん」
「そんでこの面(ツラ)構えと来た。上級生や他校によく絡まれて喧嘩もしてた。何度も先生に呼び出しくらったし、謹慎処分も受けてきた」
「…そうだったんですね」

　これはその時の傷跡、と言って自身の額の傷や首元にある痛々しい傷を見せてくれた。流石の私も、この状況で鼻血は出せなかった。
　強面(こわもて)と言われればそうかもしれないと案外頷ける彼の容姿は、かつてない程に悲しそうな表情(カオ)をしていた。私はそんな彼に何て声を掛けたら良いか分からなかった。

「今思えば何もかっこいい事なんてしてねェけど、そん時は馬鹿してる自分がかっこいいって思ってた。親にも迷惑かけて、学校内を荒らして、他の生徒に冷ややかな目で見られた」

　今の私は、一体どんな表情(カオ)をしているのだろうか。同情、哀れみ、憐憫(れんびん)、など。そう思われても仕方ない様な顔を造ってしまった事に、私は酷く後悔した。
　たとえ彼の言っている事が嘘偽りない事実だとして、私はどう思ったのだろう。勿論、彼のしてきた行いは到底良い事だとは思えない。昔から馬鹿真面目で優等生というレッテルを貼り付けながら息を食べてきた私にとって、不良という存在は縁もゆかりも無いものだ。
　だから彼を軽蔑する。いや、そんな訳がない。そんな事ある筈がない。たとえ彼が不良だったとして、だからなんだ。

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