大船 ページ37
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「久しぶりだなァ、A」
「名前で呼ばれる程の親しい間柄ではなかったけど」
「相変わらず喰えねェ女だ」
ククッと喉を鳴らす様な笑い方と共に、奴は私の方へ一歩一歩距離を縮めながら近付いた。蝶柄の派手な着物に身を包み片手で煙管を持ち構えるその妖艶な姿は見れば見るほど脳に直接刺激が走ってしまうくらいクラクラした。高杉晋助という男は、そういう男なのである。
ボーッとしていたら最後、彼が纏っている独特な甘い香りに呑まれてしまう。
「まさかあの人間嫌いの黒鬼がすんなり鬼兵隊に入ってくれるなんて思ってもいなかったぜ」
「不本意ですけどね!」
「まァ落ち着けや」
「落ち着いてますけどね!」
半ば無理矢理感満載でテンションを上げつつ、鬼兵隊の所持する船に大股で乗り込んでやった。
場所は大江戸港。そこにデカデカと存在を引き立たせている大船が一隻。こんな大きな船を置いておいて警察の目から逃げられるのか、なんて呑気な事を考えていたが、そもそもこの船に乗った瞬間、自分もその犯罪者集団の仲間入りとなる事をすっかり忘れていた。さらば平穏な日々、さらば平和な世界。
「ほら、テメェのモンだ」
「ぅへっ」
「何マヌケな声出してんだよ」
「不慮の事故だわ」
急に背後から刀を渡され、またしても可愛げのない声を出す自分。そろそろヒロインの自覚を持って欲しい。いやメタ発言やめい。
嫌々ながらも刀を受け取り、カチャリと音を立てて鞘から刃を出してみる。
────約束、破ってしまったな
刀を鞘に納めて小さな溜息を吐いた。脳裏に映り込んで離れない人物が一人。目の前にいる高杉とは別の色気を纏った、土方十四郎という男だ。
私も厄介な人間と関わりを持ってしまったな、なんて。つくづく自分の不運さを恨みながら刀を持ち直した。こんな重い物を昔の自分は軽々と振り回していたのか。何とも時間と年齢というのは末恐ろしいモノである。
「…私はもう、刀は握りたくない」
こうなりゃ賭けだ。この言葉で野郎の逆鱗に触れて斬られてももう何も抵抗をするつもりはない。それさえも面倒である。すると野郎が持つ翡翠色の瞳がゆらゆらと揺れた。何かしらの合図だ。私はゴクリと唾を飲み込んだ。
「……握れと言ったら?」
ほら、この男は私に選択肢を施すのだ。
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いくま(プロフ) - ふぉい!さん» 選ばれたのは綾〇ですよ((ニコッ (2018年7月24日 8時) (レス) id: 8c955fc7fb (このIDを非表示/違反報告)
ふぉい! - 選ばれたのは綾鷹wwww (2018年7月2日 19時) (レス) id: 1633712eeb (このIDを非表示/違反報告)
いくま(プロフ) - マピトさん» コメントありがとうございます。一番だなんてとんでもないです。。。私もずっと土方さん推しなのでマピトさんの小説読んできます! (2018年4月5日 14時) (レス) id: 8c955fc7fb (このIDを非表示/違反報告)
マピト - 今まで見てきた小説の中でこの小説が一番良いなと思いました。 私も土方オチの小説を書いているので見習いたいと思います! (2018年4月5日 11時) (レス) id: 9353c4256d (このIDを非表示/違反報告)
いくま(プロフ) - ユラさん» コメントありがとうございます。瞬時に思って頂き光栄です、笑しかし文才が皆無なのでこらから無茶苦茶展開になると思いますが、これからもよろしくお願い致します。 (2018年4月4日 12時) (レス) id: 8c955fc7fb (このIDを非表示/違反報告)
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