三日目の青春 ページ9
あの頃には戻りたくない。あの時助けてくれた、あなたが、悲しい思いをしているだなんて、悲しくて仕方がない。
古橋くんの手を引いて、鞄だけ持って、無言で教室を出る。
ああ、やってしまった。でもいいんだ、古橋くん、君は一人じゃない。
「ねえ、もう授業が始まるけど？」
「出る気起きない……」
不意に古橋くんが服を脱ぎだすから、慌てて止める。何してるの。
「いや濡れてるし……俺風邪引きたくない。」
「あ、そっかごめん……ジャージ持ってくる？」
「いや、乾くまで待つ。幸い水だし、上しか濡れていないから。」
こうして二人になると古橋くんは意外と饒舌である。
さっきひどい嫌がらせを受けたとは思わせない平たい声は私を落ち着かせると共に不安にさせる。古橋くんはあんなひどいことをされて平気なの？そんなのきっとおかしい。
「おい雅乃、なぜあんな目立つことをした？」
「私は普段から目立ってますー」
「そうじゃない」
黙ると、古橋くんはもう一度、そうじゃない。と、言い直した。
「だってさ！！古橋くんかわいそうじゃん！！」
古橋くんの胸ぐらをつかもうとしたら服がなかったから、首を思い切りつかむ。涙がふわっと周りに飛んだ。なにないてんの私。古橋くんは真っ黒な目を少し見開いて私を見る。
ボロボロ泣いていると、古橋くんに頭を撫でられた。何もわかっていないよ古橋くんは。
古橋くんだってそうやって、身を挺して、私を助けてくれたことがあったのに。
「あのね、雅乃。」
「なんだよっ」
「ありがとう。」
がば、と、不機嫌な顔のまんま古橋くんを見る。
なに、ありがとうって
遠くでチャイムがなる。この夏二度目の無断欠席。
古橋くんは全然悲しくなさそうだ。でもふっと思い出した。古橋くんは表情を出すのが苦手なんだった。そうだよね、悲しくないなんてことはないよね、悲しいよね、だって飛んできた水滴は冷たかったもの。
そんなことを思うとまた、ポロポロ涙が落ちた。古橋くん、可哀想だ。
「雅乃は、俺の代わりに泣いてくれているんだね。」
「うっさいなぁ！」
「変なやつだな、本当に、お前って。」
「だってさ、だって。」
「大好きなんだもん……」
古橋くんはまた少し目を見開いて、笑おうとしたのか口のはしが動いたけれど良くわからなかった。
「そうか、そう言ってたっけ。うん。ありがとう。」
心がフワフワする。私は意外と古橋くんが思いつめていることだって知っているんだからね。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 80人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
??(プロフ) - さんかくさんの作品本当にどれも好きです…だいすきです…！綺麗な言葉遣いもこっそり引いた伏線も、ほんとうにだいすきです……書いて下さりありがとうございます、これからも見守らせて下さい。 (2019年11月26日 12時) (
レス) id: 3ef7e56a7e (このIDを非表示/違反報告)
紀子(プロフ) - え……読めるようになってる……？昔から大好きです。 (2019年10月27日 2時) (レス) id: 6774929983 (このIDを非表示/違反報告)
梨を愛し、梨に愛された女、白花 麗華ぁぁぁぁあ！！ - すいません、メンヘラでヤンデレお馬鹿な古橋康次郎 のパスワードを教えて頂いてもよろしいでしょうか？七星さんかくさんの作品、好きです！頑張って下さい！ (2019年10月14日 17時) (レス) id: 7bbb3379fc (このIDを非表示/違反報告)
��七星さんかく��(プロフ) - ハチミツさん» ハチミツさんコメントありがとうございます！感動だなんて嬉しくて目から梨が出そうです(;_;)ありがとうございます！ (2016年3月29日 2時) (レス) id: 5e0f27d929 (このIDを非表示/違反報告)
��七星さんかく��(プロフ) - めーりんさん» めーりんさんコメントありがとうございます！十回もですか！本当に嬉しいです。めーりんさんも小説を書いているんですか？応援してます！ (2016年3月29日 2時) (レス) id: 5e0f27d929 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：七星さんかく | 作者ホームページ：http://naiyo.jp/arimasen/
作成日時：2015年6月28日 20時
