彼女は口走る ページ8
「…何言ってるのアンタ。そんなんで安心するだなんて、お人好しもいい所ね」
こんな状況でも笑うカラ松が面白くないのか、彼女は蔑む様にカラ松を睨むが
彼は尚も目を細めながら、今さっき出て来たテーマパークの方を見遣る。
中心に立つ大きな城。あそこでは写真を撮ったなと思い起こす。
あの時、彼女は象徴でもある大きなマスコットの像に大はしゃぎして、周りの視線を集めていたっけ。
だが写真を撮った時の彼女の笑顔が忘れられない。
いつも見る、無邪気で可愛らしい笑みを満面に浮かべた彼女の笑顔。
何度か撮り直してようやく撮影した、渾身の1枚。
カラ松の端末で撮ったので、その画像も、彼女によってボツとなった画像も保存されているが
カラ松の頭の中にもしっかりと、あの時の彼女の笑顔が記録されていた。
…そんな事を思い出しながらカラ松は「ああ…でも残念だ」とうわ言の様に呟いた。
「俺はすっかりAと回っているつもりだったが…そうじゃ、なかったんだもんな。
彼女とも…回りたかったなぁ…
きっとAは子供のようにはしゃいでるんだろうなぁ…」
「……」
彼女の人格が普段のAの人格ではないので、当然今日一緒に回ったのはAではなく、クロである。
カラ松はそれが心底残念なようで、悲しげ眉を下げながら苦笑いを浮かべた。
そんなカラ松に彼女の目元が僅かに緩むと
拳を握り締め彼から目をそらす。
「……私じゃ、ダメだったの?」
気付いたら、彼女の口から言葉が漏れていた。
彼女はハッと目を見張る。
ぼんやりと城を眺めていたカラ松だったが、その言葉の意味を理解し彼女の方を向いた頃には
目の前の彼女は冷たい瞳でカラ松を見下ろしていた。
「…これ以上アンタといても調子が狂うだけだわ。
今度こそ私はお暇させてもらうわね」
やや口早に彼女は告げると痺れて動けないカラ松の胸ポケットから彼の財布を抜き取り「貰っとくわね」と嘲笑う。
その代わりなのか、彼女は乱暴に持っていたぬいぐるみのクロをカラ松に投げ渡して「それ、あげるわ」とまた笑う。
そのまま彼女はゆったりとした足取りで歩き出し、カラ松の乗った車から離れていく。
「…さよなら」
最後にそう、小声で呟いた彼女の言葉は誰にも届かない。
だって、その時のカラ松は助手席に投げ込まれたクロを見遣りながら、笑っていたのだから。
「……聞いた通りだ、
悪いが、後は、頼んだ…」
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柊(プロフ) - 朝から暇潰しにと軽い気持ちで読み進めてたんですが、書き方や設定の作り込みにすごく惹き込まれて一気に最終章まで読み進めてしまいました……特に主人公対兄松それぞれのやり取りにはすごく圧巻したというか、兎にも角にも笑いあり感動ありですごく面白かったです;; (2022年4月30日 0時) (レス) @page50 id: a82882ac10 (このIDを非表示/違反報告)
*IJu*(プロフ) - トマトの王様さん» コメントありがとうございます!終わってしまいました…!楽しんで頂けたようで良かったです^^ここまで読んで下さりありがとうございました〜!! (2019年8月1日 1時) (レス) id: 3241b35fe8 (このIDを非表示/違反報告)
トマトの王様 - うわあぁぁぁぁぁ!遂に終わってしまった…!( ;∀;)読んでてとても楽しかったです。お疲れ様でした! (2019年7月31日 14時) (レス) id: 5390b171c6 (このIDを非表示/違反報告)
*IJu*(プロフ) - arumo?さん» コメントありがとうございます!お疲れ様ですっ( ˇωˇ ) (2018年10月10日 0時) (レス) id: 3241b35fe8 (このIDを非表示/違反報告)
arumo?(プロフ) - お疲れ様です! (2018年9月29日 11時) (レス) id: ee4365cb85 (このIDを非表示/違反報告)
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