サッカーと大罪人とお好きな松とヒーローと【短編集】2 (ページ38)

今日:20 hit、昨日:5 hit、合計:31,736 hit

俺と神様の14日間【狩屋】ページ38

「A様A様、我らの村をお救い下さい」

そう言って、村の偉い人は俺を神様に差し出した。

－－－

「マサキ」

まるで鈴のような声で俺の名前を呼ぶ女の子。

彼女の名前はA様。

俺の住んでいた村の神様だ。

見た目は俺と年端が変わらなさそうな人だけど、やっぱり彼女は神様で
俺が〝イケニエ〟として彼女の元に引き渡された時に、A様は村に雨を降らせた。

晴れ続きで水不足に悩まされていた村人は大喜び。
でも俺はその日以来、村に1度も戻れていない。

…いや、もう2度と戻れないだろう。

だって、俺はA様に捧げられた〝イケニエ〟だもんね。

「どうしたんですか、A様？」

掃除をしていた俺は1度中断して振り返り、すぐに返事を返した。

此処に来てから掃除ばっかりな気がする。

それに何も食べてないんだ。

普通だったら可笑しいんだよ。
だってもう7日は経ってるのには。

全然お腹は空かないし、喉も乾かない。
やはり此処は神様の家なんだ。

「いや…その、少し教えて欲しい事があって」

A様は何だか気恥しそうにそう告げると、おずおずと背中に隠していたものを俺に差し出した。

それは鞠だった。

笑と布で作られた手作りの鞠。
形が少し歪だけど。

彼女はソレを差し出すと、少し興奮気味に話した。

「き、近所で人間の子供達がやっていてな…！
似たようなものを作ってみたのだが、何分遊び方がわからなくての…」

A様は神様だけれど、人間に興味があるみたいで
時々こうして人間がやる遊びや文化を盗み見ては俺に「教えて」と尋ねて来る。

そこら辺は意外とA様は見た目以上に幼いと思う。

「鞠って言ったら色々な遊び方がありますが…A様が見たのはどんなのでしたか？」

「確か、足で蹴っていたよ。
的を描いた木に当てたり、手を使わずに足だけで受け渡ししていた」

「ああ、それは蹴鞠ですね」

「けまり…？」

「はい、多分」

確認の為にA様から鞠を受け取ると、手を使わずにソレを地面に落とさぬよう打ち上げ続けた。

幸いにも、俺は蹴鞠が得意なんだ。
よく1人で朝から晩までずっとやっていた事をふと思い出す。

A様は「それじゃ！」と目を輝かせ、笑顔を浮かべると
途端に真剣な顔になって、俺の顔を覗き込んだ。

「私にも教えてくれ！何だか楽しそうだ！」

「…はい、喜んで」

……A様との生活はこんな感じで、まぁ悪くはなかったんだ。