サッカーと大罪人とお好きな松とヒーローと【短編集】2 (ページ39)

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「…マサキ」

俺がA様の所に来て14日目のある日、A様は浮かない表情で俺の名前を呼んだ。

その沈んだ声は何だか悲しそうで、胸がざわつく。

「どうされたんですか、A様？
何だかお顔が優れませんよ？」

「…」

いつも通り返事を返し、顔色について尋ねてみたがA様は口を噤んでしまった。

しかし、ゆっくりと顔を上げて俺を見つめると、そっと自分の掌を俺に見せた。

「…っ…！？」

瞬間、俺は絶句した。

だって、A様の手は透けていたんだから。

「人間の信仰心が足りないんだ。
私は信仰心が無いと消えてしまう」

更に追い打ちを掛けるかのように、A様はそう言った。

信仰心が足りない…？

消える……？？

そんな、A様が消えるだなんて。

嫌だ。

「仕方ない事はわかってるんだ…神というものは、時代と共に忘れられるもの……」

「あ…あ、諦めないで下さいよ…！
そんな、消えるだなんて……なんで、どうしてっ…！？」

「落ち着けマサキ。これは神の宿命とも言えるもの。
寧ろ私はよく保った方だと思う。1000年もの間、神としてこの地を納められたのだからな」

そう言うとA様は、ﾆｺﾘと柔らかな笑みを浮かべる。

その笑みは何処か諦めていて、何処か悲しげで、儚くて。

本当に今にも消えてしまいそうで、俺は堪らず彼女にしがみつくように抱き締めた。

「これ、マサキ…」

「嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だっ…！！なんで、どうして消えちゃうの！？A様は神様なのに！！
消えないでよ！！勝手に消えないでよっ…！！」

ボロボロと俺の目から涙が溢れる。
ああ、A様の着物にシミを作ってしまう。

でも離れるのが怖くって、ギュッと強く抱き締めると
A様はこんな俺の背中に腕を回して言った。

「…私だって、消えたくはない。
しかし、これは仕方ない事なのだよ」

「い、嫌っ…！！」

「主と過ごした1000年は、実に愉快だった。
また再び会った時は、もっと色んな事を教えてくれ」

「ヤダ、ヤダっ…行かないで、A様っ…！」

「………残念だが、時間だ」

最後にA様がそう呟くと、辺りが眩い光で包まれた。

俺は思わず目を瞑ってしまい
次に目を開いた時、俺は知らない場所にいた。

何処か小汚い神社のような所で、鳥居の外は見た事の無い建物と点々とした光が広がっていて。

『ごめんね』

何処かで彼女が、そう言っているような気がした。