サッカーと大罪人とお好きな松とヒーローと【短編集】2 (ページ14)

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それからの日々はバケモノにとって毎日が新鮮で、毎日が楽しく感じました。

一緒に起き、一緒に散歩、一緒に読書、一緒に寝る。

2人はいつも一緒。ずっと一緒でした。

バケモノは最初、少年が何かとくっついてくる事が嫌で嫌で仕方がありませんでしたが

今では嫌だという気持ちは微塵もありません。

だが、バケモノは少々素直になれない時がありました。

僅かながらに人間に対しての嫌悪感があったのです。

それが時々邪魔をして、維持を張って1人になろうとしました。

そんな日々を過ごしている内に幼かった少年はちょっと大人になりました。

そして少年が15回目の冬を迎えた時に
彼はバケモノに言いました。

「A、好きだよ、愛してる」

それは愛の告白でした。

バケモノは内心でその言葉を貰って、とてもとても嬉しかったのです。

だが彼女の中の嫌悪が、ソレを表に出す事を許してくれませんでした。

「私は、嫌だ」

気付いたらバケモノはそう言っていました。

少年は目を見開いた後、悲しそうに笑って静かに涙を流しました。

バケモノは驚きました。

何故なら少年の泣き顔を、今まで見た事が無かったからです。

「…じゃあ、これからも友達として、此処に居てもいいかい？」

少年は涙を流しながらも言いました。

バケモノはそれに黙って頷きました。

それ以降、少年は彼女にあまりくっつかなくなりました。

この時、バケモノは忘れていました。

彼は自分とは違い、限られた時間を過ごしている事に。

－－－

月日は更に流れ、少年が青年に

そして老人となり、彼はとうとう動かなくなりました。

彼は最後にバケモノにこう言いました。

「早く素敵な人を見つけて、幸せになるんだよ。

大好きだよ、A」

バケモノは泣きました。

初めて人間の為に泣きました。

そして酷く後悔しました。

あの時、少年の言葉を否定した事に。

それだけではありません。

今まで彼女は少年に対して素直になれなくて、怒鳴ったり突き放したりする事がありました。

それが今、バケモノの頭の中に流れ、バケモノはとうとう声をあげました。

「わ、たし…もっ……
だ、い……好き………だ、よっ……

フェイ………っ…！！」

冷たくなっていくしわくちゃな掌を握りしめながら

もう意識の無い少年に向けて、彼女は最後にそう言いました。

その日の満月はまるで初めて少年と会ったあの時の様に、酷く綺麗でした。