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『ただいま…』
ここ最近、新任教師というのもあってか、こき使われていた和己は残業が多くなり、帰りも遅くなっていた。疲れは蓄積し、ストレスも増す一方だ。
もういっそこのまま寝てしまいたい。そう思っていた矢先、
「あっ、おかえりー!」
坂田が丁度風呂から上がったらしくパジャマ姿で迎えた。
「なぁなぁ、今日バイオの実況やってたんやけどな?めっちゃおもろかったから和己にもやって欲しい……
って、どーしたん?」
『いや、別に…。つか、今日は無理』
疲れていたのでゲームをする気力も残っておらず、適当に流した。
「え〜!なんやねん!最近遊べてないから一緒にやって欲しいって思ってたのに」
頬を膨らませ、不満そうにする坂田を尻目に寝室へ向かった。
「あれ?風呂と飯は?」
『いらない』
「あかんやろ。風呂入って飯食わな〜」
そう言って坂田は和己をつんつんとつついた。
「そういえば、例の土曜日の事で話があるんやけど」
そういえばそうだった、と思ったが、生憎仕事を押し付けられたのでどうにも行けそうにない。
『ごめん。それまた今度で』
「なんで?また仕事なん?なんか和己最近そればっかやな〜」
今度はゴンゴンと背中を殴ってくる。
坂田はそのまま続けた。
「和己のばーか。僕にも構っ…」
『うるせぇよ』
突然、いつもよりトーンの低い和己の声が廊下に響いた。
「な、何怒っとるん?」
『お前に何が分かんだよ。歌い手のお前に!ずっと家にいるお前に!仕事の辛さが分かんのかよ!!引きこもりのお前と違って俺は朝から晩まで働いてんだよ!!
うざ…い、んだよ…』
普段なら止められる言葉を止めることが出来なかった。
謝罪を…。そう思い口を開け坂田に視線を戻せば、
「そうやね…。僕も無神経やった。気遣ってやれなくて…ごめん。もうこんな事しないから」
坂田の口から零れた言葉は少し震えていて、目には瞬きひとつで零れそうな程涙が溜まっていた。
開いた口から再び言葉を発することなく、坂田が扉を閉める音が響いた。
やがて、1人となった廊下には、静寂と後悔の念だけが漂う。
しばらくして、溜まっていた疲労が思いだされ自室へと足を向けるが、走って部屋に戻る坂田がたくさんの涙で頬を濡らし、腕で雑に払う姿が脳裏にこびりついて離れなかった。
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りうん - 文字数が足りなかったので二回目!キュンッキュンしてましたよ…!ほんまに大の大人がバタバタ暴れてましたからね…?完結(?)おめでとうございます!これからも頑張ってください! (2021年5月17日 0時) (レス) id: 78f7faa116 (このIDを非表示/違反報告)
りうん - コメント失礼します!いい歳した奴がスマホみてニマニマしてましたよ…!?いや、まじで神でした…。視点つーか書き方がもう最高よね。口調とかつかめてるし…。sktさん受け…。夢主くんのキャラで攻め…。めちゃタイプなんすけど俺を殺しに来てます?尊死… (2021年5月17日 0時) (レス) id: 78f7faa116 (このIDを非表示/違反報告)
にぽ(プロフ) - 完結おめでとうございます (2021年5月12日 18時) (レス) id: 8283b931e7 (このIDを非表示/違反報告)
ゆきくん(プロフ) - 完結(仮)おめでとうございますぅぅぅ! (2021年5月8日 13時) (レス) id: baaa85792d (このIDを非表示/違反報告)
ゆきくん。 - 2コメ目失礼します!ァァァァsktさんの告白ゥゥゥ夢主くんがどっちになるのがドキドキしながら作品を、見てます! (2021年5月3日 22時) (レス) id: baaa85792d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:なつ | 作成日時:2021年4月9日 15時