薫風の候 ページ4
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日々樹渉はまた私を誘いにやって来た。最後にあった桜を見た日から1ヶ月、転校先の高校からの下校中に彼は現れたのだ。
｢ もう桜は散ってしまいましたね ｣
何も変わらない日々樹渉は、私と待ち合わせをする同性の友人のように当然の如く話し始める。彼はあの日とは違い、髪をおろし風に揺らしていた。私の髪は、相も変わらず青く染まったままで切りはしなかったので少しは伸びただろう。
｢ おや ｣
無言を突き通した私の耳に彼は触れながら声を漏らすものだから、思わず身を固めてしまった。彼は私の右耳を触り、ふむふむと頷き左耳もまじまじと見つめる。
｢ 貴女の首筋が見えますね ｣
｢ ピアス空けただけですね ｣
穴越しに首筋見えます と言われても苦笑いだ。何も刺していないが空けただけの耳たぶと軟骨にできた空洞は、五月の風が吹き込んでくる。
｢ 似合ってますよ ｣
｢ 綺麗なピアスと巡り合うまでこのままです ｣
何が似合うのだろう。似合う、と言われた穴。褒められたのが気恥しくて照れ隠しに馬鹿なことを言ってしまった自分に後悔しつつ私は帰路を歩み続ける。
彼と歩いた桜並木は、自然を表すように青々としていて桃色はもう世界から消えていた。たったの1ヶ月で、世界は少しずつ変わる。人間の骨も1日経てば昨日と違くなるなんて話もあるように、私たちは日々進化を求められ義務付けられている。私も日々樹渉も1ヶ月前とは違うのだ。
｢ 日々樹渉 ｣
｢ もう少し感情を込めて呼んでほしいものですね ｣
あと何度この名前を口に出来るのだろうか。あと何度日々樹渉の存在を感じられるだろうか。
｢ やはり貴女には桜が似合っていました ｣
あと何度、その笑みを向けられるだろうか。
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明蛍 - 更新待ってます 頑張ってね (2019年2月18日 17時) (
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作者名：白城あろ
| 作者ホームページ：
作成日時：2018年5月26日 17時
