1.light snowfall ページ3
「あ，雪」
「ほんまや」
目の前に急に姿を見せた白い浮遊物に，反射のように声が出る。幾つになっても雪を見るとテンションが上がる。特に自分は，雪へ只ならぬ愛着と言う物が湧いていた。なんせ，自分たちのユニット名でもあるのだから。
「snowfall♪積もるといいですね」
「なんや，嬢も坊みたいな喋り方しあがって……兄妹揃って西洋かぶれか？」
「む，その言い方はやめてください」
隣のピンク髪の少年，もとい桜河こはくをムッと睨みつけるが効果はなく…代わりに「コッコッコ♪」と特徴的な笑い声を零された。朱桜家に仕える桜河家としてこの態度はいかがなものか。普通であれば許されるべきものではないが，この少年だけは違った。朱桜本家の子供二人から，唯一この態度をとることが許された従者。それがこの桜河こはくである。
「snowfallなぁ……ESビッグ4ともなれば，さぞ毎日忙しいんやろうね」
「嫌味ですか？まあ，そこそこですかね」
表情は一つも変えずに落ちていく雪を目だけで追いながらこはくの発言に応えた。こはくは，ふーんと相手の様子を窺うようにすると，それっきり何も言わなくなった。
無言でESビルへと向かう中，急に無機質な機械音がなりだした。聞きなれた，ホールハンズの着信音だ。それぞれ自分の携帯へ手を当てる。鳴っていたのはAのものであった。
「もしもし…あ，兄上？えぇ，そうですね。初雪でしょうか。………はい，スイーツ会は次は来週の日曜日だったかと………。今はこはくんと一緒ですよ♪ふふふ，羨ましいですか？」
兄上。電話の相手は朱桜司のようだ。空を見上げたり，隣のこはくの顔を見上げたりと電話中にもせわしなく動くAをこはくは物珍しそうな目で見続けた。しまいには自分の名を出して「羨ましいですか？」と一言。馬鹿馬鹿しい。自分なんかと一緒に居て喜ぶ人間などいないはずなのに。居ないはず，なのに朱桜家の子供二人は何かと自分に関わってくる。それは夏にも，この前会ったSS近畿予選でも感じたことだ。(まったく，抜け作二人はわしにばっかり構って他の事疎かにしてへんやろか)などと二人を心配するようなことを考えてみるが，こんな考えは愚問であるとすぐに分かった。
(坊も嬢も，たまに怖い位に頭回りおるからなぁ……)
隣で，未だに楽しそうに電話をしているAを見て，溜息を零すと苦笑いをした。
「流石，朱桜家の神子やな」
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作者名：桃 | 作成日時：2021年12月22日 13時
